
東京海上HDの株式分割をきっかけに、気になった方も多いのではないでしょうか。
買いやすくなる前に知っておきたいのが、東京海上HDの強みです。
保険を売るだけではない、世界のさまざまな「いざ」を守る会社の姿を一緒に見ていきましょう。
- 東京海上HDは何の会社で、何を目指しているのか
- 東京海上HDの強みと、なぜ世界で稼げるのか
- 損害保険会社がどのような仕組みで利益を生み出しているのか
- 東京海上HDが海外事業を成長させてきた理由
- MS&AD・SOMPOと比べた東京海上HDの特徴
- 東京海上HDの今後の成長性と、配当・株主還元
- 15分割で何が変わるのか、株主優待はどんな制度なのか
- 現在の株価を踏まえ、長期投資先としてどう考えるか
東京海上HDは、何を目指す会社なのか
私も企業研究を始める前は、日本を代表する保険会社という認識はあっても、「なぜ東京海上という会社が生まれたのか」「そもそも保険会社は社会で何をするために存在しているのか」まで考えたことはありませんでした。
しかし歴史を1879年まで遡ると、東京海上の見え方は少し変わります。
当時の日本は、明治維新を経て近代国家へ向かい、海外との貿易を広げようとしていました。ところが、海を越えて商品を運ぶことには、船の沈没や座礁、積荷を失うといった大きなリスクがあります。
そこで必要になったのが、万が一の損失を支える海上保険でした。
東京海上の前身である東京海上保険会社は、こうした海運・貿易の発展を支えるために1879年に誕生しています。そして現在の東京海上グループは、経営理念・パーパス(存在意義)として、
お客様や社会の“いざ”をお守りする
と掲げています。公式サイトでも、安心・安全を提供するだけではなく、時代とともに変化する社会課題を解決し、より良い明日をつくることを創業以来の存在意義だと説明しています。
140年以上前は、海を越えて商品を運ぶ船や積荷を守る。
現在は、自動車、住宅、企業活動、生命、自然災害、サイバーリスクなど、世界中のさまざまな「いざ」を支える。
扱うリスクも、事業を展開する地域も大きく変わりました。それでも、人や企業が安心して次の一歩を踏み出せるように、リスクと向き合うという役割は、創業当時から現在までつながっているように見えます。
東京海上HDの強みを考える前に、まずはこの会社がなぜ生まれ、どのように「いざ」を守る会社へ成長してきたのかを見ていきます。
日本初の損害保険会社は、なぜ生まれたのか
当時の政府は「殖産興業」を進め、新しい産業を育てながら、日本を近代国家へ変えようとしていました。その中で海運や海外との貿易も重要になっていきましたが、当時の船は現在ほど安全ではありません。せっかく商品を積んで海外へ向かっても、途中で船が沈んだり座礁したりすれば、大きな損失を抱えることになります。
企業からすれば、「海外へ商品を売りに行けば成長できるかもしれない。でも、一度の事故ですべてを失うかもしれない」という世界です。
そのリスクを一社だけで抱えなくてもいいようにする仕組みが、海上保険でした。
1879年8月1日、当時成長していた海運・貿易業に欠かせない海上保険会社として、資本金60万円で東京海上保険会社が設立されました。創業当初に扱っていた商品は貨物保険だけです。現在のように自動車保険や火災保険まで幅広く扱う会社ではなく、海を越えて運ばれる商品を守ることから東京海上の歴史は始まりました。
さらに興味深いのは、東京海上が創業当初から海外へ目を向けていたことです。
1879年末までには釜山浦、上海、香港などを含む海外にも代理店を置き、翌1880年には三井物産のロンドン・パリ・ニューヨークの各支店にも代理店を委嘱しました。現在の東京海上HDを見ると「海外事業に強い日本の保険会社」という印象がありますが、世界へ出ていったのは最近のことではありません。東京海上HD自身も、グループの歴史を「創業からの海外展開」と説明しています。
ただし、ここで「昔から海外へ進出していたから、そのまま強い会社になった」と考えるのは少し違います。
1890年には海上保険の本場である英国にも代理店網を広げ、1891年には海外での船舶保険料収入が全体の半分を超えるほど急成長しました。しかし、代理店が手数料収入を増やすためにリスクの高い契約まで引き受けたことで、収支は急速に悪化します。1894年には経営危機につながりかねない状況となり、若手社員が英国へ渡って原因究明と立て直しに取り組むことになりました。
この歴史は、今回の企業研究で後ほど考える「リスクを見る力」にもつながる重要な出来事だと思います。
保険会社は、たくさん契約を取ればいい会社ではありません。
どんな事故が起こる可能性があるのか。
その確率はどれくらいなのか。
事故が起きれば、どの程度の損失になるのか。
そのリスクを引き受けるなら、いくらの保険料が必要なのか。
ここを見誤れば、売上が増えていても利益は残りません。東京海上は創業直後から世界へ挑戦する一方で、リスクを正しく見極められなければ保険事業そのものが成り立たないという難しさにも直面してきた会社でした。
そしてもう一つ考えたいのが、保険は何のために存在するのかということです。
事故が起きた後に保険金を支払うことは、もちろん重要です。しかし、もし失敗したときの損失をすべて自分だけで背負わなければならないとしたら、人も企業も大きな挑戦をしにくくなります。
海を越えて商品を運ぶ。新しい工場をつくる。新しい技術へ投資する。新しい国へ事業を広げる。
そこには必ず何らかのリスクがあります。
そのリスクを引き受ける仕組みがあるから、人や企業は一歩を踏み出せる。
そう考えると東京海上は、単に「保険を売る会社」として生まれたのではなく、日本の企業が安心して新しいことへ挑戦するために必要な仕組みを提供する会社として生まれたと見ることができます。
東京海上HDと東京海上日動は何が違う?
名前が似ているため、最初は少し分かりにくいところです。
現在、私たちが株式市場で「東京海上HD」と呼んでいる東京海上ホールディングスは、東京海上グループ全体をまとめる持株会社です。一方、東京海上日動は、そのグループの中で国内の損害保険事業を担う主要な事業会社です。
持株会社とは、自らが中心となって一件一件の保険契約を引き受けるというより、傘下にある複数の会社を保有し、グループ全体の経営戦略や資本の使い方などを考える会社です。
現在の形につながったのは2000年代です。2002年、東京海上と日動火災を傘下に持つ「ミレアホールディングス」が設立されました。その後、2004年に東京海上と日動火災が合併して「東京海上日動火災保険」が発足し、2008年には持株会社の商号も現在の「東京海上ホールディングス」へ変更されています。
ここを理解しておくことは、東京海上HDの強みを考えるうえでとても重要です。
東京海上HDを企業研究するときに見るべきなのは、東京海上日動の自動車保険や火災保険だけではありません。国内の損害保険や生命保険、海外の保険事業、さらに現在広げようとしているソリューションまで含めたグループ全体を見る必要があります。
東京海上HD自身も、現在の強みの一つとして「保険領域にとどまらない深く幅広い事業ポートフォリオ」を挙げています。また、グローバルなリスク分散やグループ一体経営も、自らの強みとして明確に掲げています。
「東京海上=日本の自動車保険会社」ではなく、世界各地の異なるリスクと向き合うグローバルな保険グループ。
この違いを理解しておくと、後ほど見ていく「東京海上HDは何で稼いでいるのか」「なぜ海外事業が大きな利益源になったのか」「世界へ事業を分散することがなぜ強みになるのか」も分かりやすくなります。
「いざを守る」とは、保険金を払うことだけなのか
「いざを守る」と聞けば、交通事故や火災、自然災害などが起きたときに保険金を支払う姿を思い浮かべます。
もちろん、それは保険会社にとって最も重要な役割の一つです。
しかし東京海上が考えている「いざ」は、事故が起きた瞬間だけではありません。
東京海上グループが目指す「To Be a Good Company」では、万が一のときだけでなく、新しい一歩を踏み出すときにも役に立つ会社でありたいという考え方が示されています。公式の価値創造アプローチでも、自然災害の激甚化やサイバーリスクの増加に対して、保険金を支払うだけで本当にパーパスを果たせるのかという問いを自ら投げかけています。
事故が起きる可能性を減らす。
事故が起きても、被害をできるだけ小さくする。
実際に被害が発生すれば、保険で支える。
そして、できるだけ早く生活や事業を立て直し、同じ事故が繰り返されないようにする。
つまり、東京海上が広げようとしているのは、「事故が起きた後」だけではなく、「事故が起きる前」から「再び前へ進むところ」までです。
この方向性は、2026年に公表された「Aspiration 2035」でさらに明確になりました。
東京海上HDは、日本発のグローバルカンパニーとして、お客様や社会の“いざ”だけでなく“いつも”も守ることを2035年に向けた姿として掲げています。そのために、保険引受、資産運用、ソリューションという三つの領域にテクノロジーを組み合わせ、保険にとどまらない「ソリューションパートナー」になることを目指しています。
ここで大切なのは、東京海上が「保険をやめて別の会社になろうとしている」わけではないことです。
東京海上HDのグループCEOも、保険の提供をコアとしながら、その外側へ革新的なソリューションやサービスを広げるという方向性を示しています。
だから今回の記事タイトルに入れた「保険だけじゃない」も、「保険が重要ではなくなる」という意味ではありません。
保険でリスクを引き受ける。
長年蓄積してきたデータや知見からリスクを見つける。
テクノロジーを使って事故を予測する。
専門家の力で事故や災害を防ぐ。
何かが起きれば保険で支え、復旧まで伴走する。
保険という強い土台があるからこそ、その前後まで価値を広げられる。
東京海上HDが今後目指しているのは、そんな会社なのだと思います。
1879年には、日本の企業が海を越えて挑戦できるよう、船や積荷のリスクを引き受けました。
創業直後には世界へ事業を広げ、その中でリスクを見誤る失敗も経験しました。それでも時代とともに新しいリスクと向き合い、自動車、火災、自然災害、企業活動、海外事業へと守る対象を広げてきました。
そして現在は、グローバルなリスク分散とグループ一体経営を強みに、世界中の異なる「いざ」と向き合いながら、保険のさらに先まで支えようとしています。東京海上HD自身が現在掲げている「次の一歩の力になる。」という言葉も、創業から続いてきた役割を考えると、単なる広告表現ではないように感じます。
人や企業が、リスクがあるから挑戦を諦めるのではなく、リスクがあっても次の一歩を踏み出せるようにする。
企業研究を始めたばかりですが、東京海上HDが何を目指している会社なのか、その輪郭が少し見えてきました。

東京海上は、保険金を払うだけの会社ではないのですね。
リスクと向き合いながら、人や企業が次の一歩を踏み出せるよう支えてきた会社だと見えてきました。
東京海上HDは何で稼いでいる?損害保険会社のビジネスモデル
では、企業としてはどのように利益を生み出しているのでしょうか。
保険会社というと、多くの人から保険料を集め、事故が起きた人へ保険金を支払うビジネスというイメージがあります。もちろん基本的な仕組みはその通りですが、実際には「保険料をたくさん集めれば儲かる」という単純な事業ではありません。
どんなリスクを引き受けるのか。そのリスクに対して十分な保険料を設定できているのか。事故や災害による保険金の支払いをどこまで抑えられるのか。そして、保険事業を通じて保有する資産をどう運用するのか。
東京海上HDの利益を理解するには、「保険を引き受けて稼ぐ力」と「資産を運用して稼ぐ力」の両方を見る必要があります。
さらに現在の東京海上HDは、日本の自動車保険や火災保険だけで稼いでいる会社でもありません。国内損害保険、国内生命保険、海外保険に加えて、保険の前後まで支えるソリューション事業へも領域を広げています。
まずは、損害保険会社がどのような仕組みで利益を生み出しているのかから見ていきます。
そもそも損害保険会社はどうやって儲かるのか
例えば100人から保険料を集めても、100人全員が同じ年に事故に遭うわけではありません。大勢でリスクを分け合い、実際に事故が起きた人へ必要なお金を支払うことで、一人では抱えきれない大きな損失を社会全体で支えることができます。
会社側から見ると、
受け取った保険料
- 保険金の支払い
- 代理店手数料や人件費などの事業経費
を管理し、保険そのものから利益を残すことが基本になります。
ただし、ここで重要なのは、保険料を増やせば自動的に利益も増えるわけではないことです。
極端な例ですが、1万円の保険料を受け取っても、その契約によって平均2万円の保険金を支払うのであれば、契約を増やすほど赤字になります。
だから保険会社は、「どんなリスクなら引き受けるのか」「そのリスクならいくらの保険料が必要なのか」を常に考えています。
前に見た東京海上の創業直後の英国事業でも、リスクの高い契約を十分な判断なしに引き受けたことで収支が悪化しました。保険会社にとって、売る力と同じくらい重要なのが、引き受けるリスクを見極め、適切な価格を付ける力なのです。
そして、保険会社にはもう一つ大きな収益源があります。
それが資産運用です。
保険会社は、受け取った保険料をすべてすぐに保険金として支払うわけではありません。将来の保険金支払いに備えながら、債券や株式などさまざまな資産を保有し、そこから利息や配当などの運用収益を得ています。
そのため保険会社の利益を見るときは、
保険そのものから利益を出せているか。
それだけではなく、
保有している資産からどれだけ安定して利益を生み出せているか。
この二つを見る必要があります。
東京海上HDが2035年に向けた戦略でも「保険引受」と「資産運用」を主要な競争力として位置づけているのは、どちらも保険グループの利益を支える重要な柱だからです。
同じ金融業でも、銀行と保険会社では利益を生み出す仕組みが大きく異なります。預金・融資・決済を中心に稼ぐ銀行側の仕組みと比べてみると、三菱UFJの強みと東京海上HDの違いも見えやすくなります。
正味収入保険料とは?
簡単に言えば、保険会社が引き受けた保険契約から得る保険料の規模を見るための代表的な指標です。
実際の保険会社は、自社が引き受けたリスクの一部を別の保険会社へ移す「再保険」という仕組みを使います。そのため、お客さまから受け取った保険料をそのまま見るのではなく、再保険による受け払いなどを調整したうえで、自社に実質的に残る保険料がどれくらいあるのかを見るのが正味収入保険料です。
例えば正味収入保険料が増えていれば、保険事業の規模が拡大している可能性があります。
ただし、これも「増えれば増えるほど良い」という数字ではありません。
正味収入保険料が10%増えても、それ以上に事故が増えて保険金の支払いが膨らめば、利益は減るかもしれません。だから正味収入保険料を見るときには、必ず「その保険料からどれくらい利益を残せているのか」とセットで考える必要があります。
なお、東京海上HDはIFRS(国際会計基準)を適用しており、グループの最新連結決算では「保険収益」という項目が使われています。正味収入保険料は現在も東京海上日動など個別の損害保険事業を分析する重要な指標ですが、東京海上HD全体の売上規模を見る場合は、最新IRの「保険収益」や「Total Business Volume」なども合わせて確認する必要があります。
コンバインドレシオとは?
名前だけを見ると難しそうですが、考え方はそれほど複雑ではありません。
簡単に言えば、受け取った保険料に対して、保険金の支払いや事業経費がどれくらいかかったのかを見る指標です。
例えば100円分の保険料に対して、保険金の支払いや経費が合計95円なら、コンバインドレシオはおおむね95%です。100%を下回っていれば、基本的には保険引受そのものから利益を残せている状態と考えられます。
反対に100%を超えていれば、保険料より保険金や経費の負担が大きくなっていることを意味します。
もちろん実際の決算では算出方法や一時的な自然災害の影響などもあるため、単純に100%だけで良し悪しを決めることはできません。それでも、
たくさん保険を売れているかを見るのが正味収入保険料。
その保険を適切な価格で引き受け、利益を残せているかを見るのがコンバインドレシオ。
と考えると分かりやすいと思います。
東京海上日動でも、正味収入保険料だけではなく、保険金の発生状況や事業費率と合わせてコンバインドレシオを継続的に管理しています。
東京海上HDの強みを考えるときも、「保険料が大きい会社だから強い」という見方だけでは不十分です。
リスクを見極め、必要な保険料を設定し、保険金と経費をコントロールしながら利益を残せるか。
ここが保険会社としての実力を見る重要なポイントになります。
東京海上HDにはどんな事業があるのか
現在の東京海上グループは、日本を含む世界各地に事業を展開しています。従来は大きく国内損害保険、国内生命保険、海外保険、金融・その他という事業で説明されることが多かったのですが、現在の東京海上HDが目指している方向を見るうえでは、ソリューション事業も無視できなくなっています。
2026年度の会社予想では、保険収益およびソリューション事業の売上収益を、国内保険事業、海外保険事業、ソリューション事業などに分けて開示しています。
大きく整理すると、現在の東京海上HDは次のような事業を持っています。
- 国内損害保険:自動車保険、火災保険、企業向け保険など
- 国内生命保険:死亡や病気などに備える生命保険
- 海外保険:北米を中心としたスペシャルティ保険など世界各地の保険事業
- ソリューション:防災・減災など、事故の前後にある課題を解決する事業
- 資産運用・その他:保険会社が保有する資産の運用やグループのその他事業
この中で、国内損害保険は東京海上グループの原点であり、現在も大きな収益基盤です。
一方で、企業研究を進めるうえで特に注目したいのが海外保険です。
2026年度の会社予想では、「保険収益およびソリューション事業における売上収益」7兆8,480億円のうち、国内保険事業が3兆2,330億円なのに対して、海外保険事業は4兆3,870億円を見込んでいます。ソリューション事業も2,980億円まで拡大する予想です。
つまり現在の東京海上HDは、すでに日本国内の損害保険だけで成り立っている会社ではありません。
国内で安定した保険事業を持ちながら、海外で異なる地域・商品・顧客のリスクを引き受け、さらに保険の前後へソリューションを広げる。
複数の事業から利益を生み出せること自体が、東京海上HDの事業構造の特徴になっています。
東京海上HDは国内と海外のどちらで稼いでいる?
私も最初はそのイメージを持っていました。
しかし現在の利益構成を見ると、東京海上HDはすでに海外の方が大きな利益を生み出すグループになっています。
東京海上HDが2026年度予想として公表している修正純利益は9,500億円。その事業別構成は、Japanが約32%なのに対して、Internationalは約67%です。会社自身も「International事業が利益成長を牽引」と説明しています。
IFRSベースの2026年度会社予想を見ても、親会社の所有者に帰属する当期利益8,300億円のうち、国内保険事業が2,840億円、海外保険事業が5,370億円と、海外が国内を大きく上回ります。
これは、東京海上HDを見るうえでかなり重要な数字だと思います。
1879年に日本で生まれた会社ですが、現在の利益構造はすでに日本だけに依存していません。
国内損害保険や国内生命保険から安定した利益を得ながら、海外では先進国のスペシャルティ保険などから利益を取り込み、地域も商品も異なる事業を組み合わせています。東京海上HD自身も、国内外の利益構成が分散されたポートフォリオを強みとして説明しています。
そして、この構造には保険会社ならではの意味があります。
例えば日本で大きな自然災害が発生すれば、国内損害保険の利益は大きな影響を受ける可能性があります。
しかし、同じ年に世界中のすべての地域で、まったく同じ種類の巨大損失が発生するとは限りません。
日本。
北米。
欧州。
新興国。
個人向け保険。
企業向け保険。
スペシャルティ保険。
さまざまな地域やリスクを組み合わせることで、一つの市場や一つの災害だけに会社全体の利益が左右されにくくなります。
東京海上HDが経営戦略の中心に「グローバルなリスク分散」を置いているのは、このためです。会社の試算では、2026年度のリスク量は単純に足し合わせると4.1兆円ですが、分散効果によって2.3兆円まで低下するとしています。
これは単に「海外でもたくさん保険を売っている」という話ではありません。
世界へ事業を広げることそのものが、保険会社としてのリスク管理につながっている。
東京海上HDの海外事業を理解するうえで、この視点はかなり重要です。
では、なぜ東京海上HDは海外でこれほど大きな利益を稼げるようになったのでしょうか。
そこには、長年の海外M&Aや専門性の高い保険会社の買収、そして買収した会社を一律に東京海上流へ変えるのではなく、それぞれの強みを残しながらグループとしてつなげてきた経営があります。
この部分は、東京海上HDの強みを考えるところで改めて詳しく見ていきます。

日本の損保会社というイメージでしたが、利益の中心はすでに海外なのですね。
保険と資産運用に加えて、世界へリスクを分散できることも東京海上HDの特徴だと分かってきました。
東京海上HDの強み|なぜ世界で稼げる損害保険会社なのか
では、なぜ日本で生まれた保険会社が、ここまで世界で利益を生み出せるようになったのでしょうか。
単純に「海外へたくさん進出したから」では説明できません。保険会社は事業を広げるほど、引き受けるリスクも増えます。地域を増やしても、利益の出ない保険を大量に引き受ければ会社は強くなりませんし、高い金額で企業を買収して、その会社の良さを失わせてしまえばM&Aも成功とは言えません。
東京海上HD自身は、現在のグループの強みとして、保険領域にとどまらない幅広い事業ポートフォリオ、パーパスを起点とした企業文化、損害サービス、グローバルなリスク分散による財務力、そしてグローバルなグループ一体経営を挙げています。
今回の企業研究を通じて、私は東京海上HDの強みを次のように整理しています。
- 140年以上かけて蓄積してきた保険引受とリスク管理の知見
- 国内で築いてきた大きな顧客・代理店基盤
- 世界へ分散された事業ポートフォリオ
- 専門性の高いスペシャルティ保険事業
- M&Aした会社の強みを残しながら成長させる経営力
- 強固な財務基盤とグループ全体の資本力
- 保険の前後まで広げるソリューション事業
ただし、これらを別々に見るだけでは東京海上HDの強さは分かりにくいと思います。
国内で生み出した資本を海外へ振り向ける。
海外M&Aによって、新しい地域や保険の専門性を手に入れる。
地域や商品が増えることで、リスクが分散される。
買収した会社の人材や専門性をグループ全体へ広げる。
そして、より分散された資本基盤が次の成長投資を可能にする。
複数の強みがつながり、一つの仕組みとして回っていること。
私は、そこに東京海上HDの簡単には真似できない競争力があると考えています。
なぜ東京海上HDは海外へ進出したのか
当時の東京海上グループには、一つの大きな課題がありました。
国内損害保険への依存度が高く、日本で大きな自然災害が起きれば、グループ全体の利益が大きな影響を受けやすい事業構造だったことです。現在のCEOレターでも、2000年以前の東京海上について、日本の自然災害による業績影響を受けやすい構造だったと振り返っています。
保険会社にとって、これはかなり重要な問題です。
例えば日本の台風リスクだけを大量に引き受けていれば、平年は利益が出ていても、巨大な台風が発生した年に大きな保険金支払いが集中します。
そこで東京海上HDが進めてきたのが、国内損害保険とは異なるリスクを持つ海外事業を増やすことでした。
2000年には再保険事業のTokio Millennium Reを立ち上げ、2008年には英国のKilnと米国のPhiladelphiaを買収して欧米での本格展開を開始しました。その後も2012年にDelphi、2015年にHCC、2020年にPureをグループへ加えています。
この20年以上の変化を数字で見ると、かなり大きなものです。
グループの修正純利益に占める海外事業の割合は、2002年にはわずか3%でした。それが2024年には、政策保有株式の売却益を除くベースで70%まで拡大しています。2026年度予想でもInternational事業は修正純利益の約67%を占めています。
ただし、東京海上HDが海外へ進んだ意味は「日本市場より海外市場の方が成長するから」というだけではありません。
利益を成長させながら、同時にリスクを分散する。
ここが重要です。
国内損保と同じようなリスクを持つ会社ばかり買収しても、グループ全体の安定性はあまり変わりません。東京海上HDは、既存事業とのリスクの重なりが少なく、成長性や収益性を持つ海外事業を取り込むことで、利益源そのものを分散してきました。公式のグループ史でも、海外買収によって資本効率の向上、利益成長、安定した経営基盤の構築につながったと説明しています。
つまり東京海上HDにとって海外進出とは、単なる「海外売上を増やす成長戦略」ではありません。
世界へ事業を広げることそのものが、保険会社としてのリスク管理でもあった。
この考え方が、現在も経営戦略の中心にある「グローバルなリスク分散」へつながっています。
海外M&Aで何を手に入れてきたのか
ただ、会社名を覚えること自体はそれほど重要ではないと思います。
見るべきなのは、東京海上HDがその会社を買うことで何を手に入れたのかです。
2008年に買収したPhiladelphiaは、米国で特定の業界やニッチな市場に向けて企業向け損害保険を提供する会社です。同じ2008年にグループへ加わった英国Kilnは、世界的な保険市場であるロイズを舞台に専門性の高い保険を手掛けてきました。2012年のDelphiは資産運用などに強みを持ち、2015年のHCCはスペシャルティ保険の大手です。そして2020年のPureは、米国の富裕層向け保険に特化しています。
つまり東京海上HDは、海外で「同じ保険会社を何社も増やした」のではありません。
専門分野。
顧客層。
地域。
保険商品。
資産運用力。
それぞれ異なる強みを持つ会社をグループへ加えてきました。
特に重要なのが、買収した会社の経営を東京海上本社から細かく統一してしまわないことです。
現在、東京海上HDはこの経営方法をFederated Model(分権・共創型のグループ経営)と呼んでいます。
買収先の経営陣には高い自律性を持たせ、その会社が築いてきたブランド、専門性、顧客との関係、経営文化をできるだけ活かす。一方で、ガバナンスやリスク管理にはグループ共通の基準を設け、東京海上グループが持つ資本、専門人材、ネットワーク、クロスセル、資産運用力を加えることで成長を支えます。
これはM&Aではかなり重要な考え方です。
優秀な会社を買っても、買収後に本社のやり方を一方的に押し付け、優秀な経営者や社員が辞めてしまえば、その会社を買った意味が薄れてしまいます。
東京海上HDはむしろ、買収した会社の経営陣をグループ全体の経営にも参加させています。
2026年7月のIR説明会を見ても、Delphi、HCC、Philadelphiaなど海外グループ会社の経営者が、東京海上HDの副社長や常務執行役員、International事業の責任者、保険引受・資産運用の責任者として並んでいます。
会社を買うだけではなく、その会社が持っていた「人」と「知識」まで東京海上グループの競争力へ変える。
これが、東京海上HDのM&Aが単なる規模拡大ではない理由だと思います。
実際、2026年のIR資料では、PHLY、Delphi、HCC、Pureの各社が東京海上グループ入り後も利益を伸ばしていることが示され、グループの資本やネットワークなどを活用したシナジーは年間4億6,100万ドル規模まで拡大しています。
買収に成功したから次の買収ができる。
新しく加わった専門人材が、次の経営判断に参加する。
グループ全体の知識が増え、さらに強い会社になる。
東京海上HDの海外M&Aは、こうした積み重ねによって競争力を広げてきたのだと思います。
スペシャルティ保険とは?
一般的な自動車保険や住宅向け火災保険のように、多くの人が似たリスクを持つ商品とは少し違います。
スペシャルティ保険は、一般的な保険では対応しにくい、企業や特定の顧客が持つ特殊なリスクを対象とする専門性の高い保険です。
例えば企業活動には、業界によってまったく異なるリスクがあります。
特殊な設備を使う企業。
大規模なイベントを開催する企業。
専門職として大きな賠償責任を負う人。
一般家庭とは桁違いに大きな資産を保有する富裕層。
こうしたリスクは、単純に「自動車1台なら保険料はいくら」と決めることができません。
顧客がどのような事業をしているのか。どんな事故が起こる可能性があるのか。事故が起きた場合、損失はいくらになるのか。そして、そのリスクならどのくらいの保険料を受け取るべきなのか。
一件一件をより深く理解する必要があります。
そのため、スペシャルティ保険では専門人材や長年蓄積したデータ、引受経験そのものが競争力になりやすいと考えられます。
東京海上HDが海外M&Aで手に入れてきたのは、保険料収入だけではありません。
PHLYやHCCなどが長年築いてきた、こうした専門領域での引受ノウハウ、人材、顧客との関係までグループへ加わっています。2026年度の海外保険でも、北米のSpecialty P&Cは正味収入保険料1兆8,590億円を見込む大きな事業になっています。
東京海上HDの海外事業が簡単には真似できない理由の一つは、世界各地に専門性の異なる保険会社と人材を長い時間をかけて積み上げてきたことにありそうです。
世界へ事業を広げることが、なぜ強みになるのか
例えば、日本の損害保険だけを手掛けている会社を考えてみます。
日本で大規模な台風や地震が発生すれば、多くの契約で同時に保険金支払いが発生する可能性があります。
一方、東京海上HDには、日本の自動車保険や火災保険だけでなく、米国のスペシャルティ保険、企業向け従業員福利厚生保険、欧州の保険、新興国の自動車保険、国内生命保険、資産運用など、性質の異なる事業があります。
日本で大きな自然災害が起きても、米国の企業向け保険が同じ理由で同時に大きな損失を出すとは限りません。
北米の一部で大きな損害が発生しても、日本の生命保険やアジアの事業が同じ影響を受けるとは限りません。
地域、商品、顧客、資産。
異なる動きをするリスクを組み合わせることで、一つの出来事がグループ全体へ与える影響を小さくする。
これがグローバルなリスク分散です。
東京海上HDの2026年度の試算では、政策保有株式を除いた各事業のリスク量を単純に足し合わせると4.1兆円になります。しかし、事業間の分散効果を考慮すると2.3兆円まで低下し、43%のリスク分散効果があるとしています。
これはかなり大きな意味を持ちます。
同じ利益を目指すとしても、リスクを抑えられれば、会社は余った資本を次の成長投資へ振り向けやすくなります。
つまり東京海上HDの場合、
海外へ投資する
→ 利益源が増える
→ リスクが分散される
→ 資本効率が高まる
→ 新しい成長投資ができる
という循環をつくることができます。
もちろん、世界へ広げればリスクがすべて消えるわけではありません。
世界的な金融危機やパンデミック、複数地域へ同時に影響する巨大災害など、地域を超えて広がるリスクもあります。また、海外事業が増えれば為替、規制、訴訟など日本とは異なるリスクも抱えることになります。
それでも、特定の国や一つの保険商品だけに依存するより、異なるリスクを組み合わせられることは保険会社にとって大きな強みです。
東京海上HDは、リスクを引き受ける会社だからこそ、自分たち自身のリスクも分散している。
この構造は、東京海上HDの事業を理解するうえでかなり重要だと思います。
東京海上HDの本当の強みは「リスクを見る力」なのか
それが、「リスクを見る力」です。
保険会社の仕事は、事故が起きた後に保険金を支払うところから始まるわけではありません。
契約する前に、
どんな事故が起こる可能性があるのか。
どのくらいの確率で起きるのか。
起きた場合、損失はいくらになるのか。
そのリスクを引き受けてもいいのか。
引き受けるなら、どれくらいの保険料が必要なのか。
これを判断します。
前に見たコンバインドレシオも、その結果が数字となって表れたものです。
安すぎる保険料で危険な契約を大量に引き受ければ、売上は増えても将来の保険金支払いによって利益を失います。一方で、リスクを恐れて安全な契約しか引き受けなければ、成長することもできません。
どのリスクを取り、どのリスクを取らないのか。
この判断が保険会社の競争力を大きく左右します。
東京海上HDも2026年度の海外事業について、単に契約を増やすのではなく「引受規律を堅持」しながら成長する方針を明確にしています。2025年度決算の質疑でも、多様な保険種目を持つポートフォリオを土台に、「規律あるリスク選別」によって保険引受利益を伸ばしていく考えを示しています。
ここで最初に見た東京海上の歴史につながります。
創業直後、海外で急速に事業を拡大した東京海上は、リスクの高い契約まで引き受けたことで収支を悪化させました。
140年以上前から、東京海上は「たくさん保険を売ること」と「良い保険を引き受けること」は違うという難しさと向き合ってきた会社です。
現在では、その判断材料が世界中へ広がっています。
国内外の保険データ。
自然災害の知見。
各業界に詳しい専門人材。
M&Aによって仲間になった海外の経営者や保険引受の専門家。
資産運用の専門家。
そして、AIやテクノロジーによる分析。
一社の中にこうした知見が蓄積されるほど、リスクをより細かく見られる可能性があります。
東京海上HDのリスク管理方針でも、保険引受リスクと資産運用リスクは、単に避けるべきものではなく「収益の源泉として管理していくべきリスク」と位置づけています。
私は、この考え方が東京海上HDという会社をよく表していると思います。
リスクをなくす会社ではありません。
理解できるリスクを見つけ、適切な価格を付け、引き受け、そのリスクを世界へ分散しながら利益へ変える会社です。
そして、その力があるからこそ、人や企業が自分では抱えきれないリスクを東京海上へ渡し、新しいことへ挑戦できます。
東京海上HDの強みは、巨大な資本を持っていることだけでも、海外に多くの会社を持っていることだけでもありません。
140年以上かけて「どのリスクなら引き受けられるのか」を考え続け、その知識を世界中の人材・データ・事業へ広げてきたこと。
私は、そこにこの会社の根本的な強さがあるのではないかと考えています。

海外に会社が多いだけではなかったのですね。異なるリスクを見極め、世界へ分散しながら利益へ変えてきたことに、東京海上HDの強さがありそうです。
大手損保3グループ比較|東京海上HDは何が違うのか
代表的なのが、MS&ADインシュアランスグループホールディングスとSOMPOホールディングスです。
東京海上HD、MS&AD、SOMPOは、日本の大手損保3グループとして比較されることが多く、「結局どこが一番強いの?」と気になる方もいるかもしれません。
ただ、企業研究をしてみると、単純に順位を付けることにはあまり意味がないように感じます。
保険料の規模を見るのか。
利益を見るのか。
ROEを見るのか。
海外事業を見るのか。
株主還元を見るのか。
どの数字を基準にするかによって、「一番」は変わります。
それよりも重要なのは、それぞれの会社がどんな事業を持ち、どのような方法で利益を成長させようとしているのかを見ることです。
3社を比べることで、東京海上HDの特徴をもう少しはっきりさせてみます。
数字を比べると、東京海上HDはどんな位置にいる?
ただし注意したいのは、各社が使っている「修正利益」の定義や事業区分が完全に同じではないことです。
東京海上HDは「修正純利益」、MS&ADは「グループ修正利益」、SOMPOは「修正連結利益」と、それぞれ一時的な要因などを調整した独自の経営指標を使っています。そのため、数字だけをそのまま横に並べて「利益が多い会社ほど優秀」と判断するのではなく、おおまかな規模と収益構造を理解するための比較として見てください。
| 東京海上HD | MS&AD | SOMPO | |
|---|---|---|---|
| 2026年度 修正利益予想 | 9,500億円 | 8,000億円 | 5,000億円 |
| 修正ROE予想 | 13.0% | 13.0% | 約13% |
| 国内損保 | 大きな収益基盤 | 非常に大きな基盤 | 大きな収益基盤 |
| 海外事業 | 利益の約67% | 成長事業として拡大 | 海外保険が大きな利益源 |
| 特徴的な領域 | スペシャルティ保険 | 海外保険・再保険・アジア | 海外保険・介護・ウェルビーイング |
| 今後の大きな方向性 | 保険+ソリューション | 国内再編+海外成長 | P&C+ウェルビーイング |
東京海上HDの2026年度修正純利益予想は9,500億円、修正ROEは13.0%です。MS&ADも2026年度のグループ修正利益8,000億円、グループ修正ROE13.0%を見込んでいます。SOMPOは2026年度の修正連結利益5,000億円を予想し、ROEについても約13%の水準を目指しています。
この数字だけを見ると、東京海上HDの利益規模の大きさが目立ちます。
ただ、私がより注目したいのは利益をどこから生み出しているのかです。
東京海上HDでは、2026年度の修正純利益の約67%をInternational事業が占めます。
一方、MS&ADは三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保という大きな国内損保基盤を持ちながら、MS Amlinなどを通じて海外保険や再保険を拡大しています。海外事業は確実に大きくなっていますが、東京海上HDほど利益構造が海外へ移っているわけではありません。
SOMPOも近年は海外事業を大きく伸ばしています。
2026年度の修正連結利益5,000億円の内訳を見ると、国内損保事業1,800億円に対して、海外保険事業は2,800億円を見込んでいます。2026年にはAspen Insuranceの買収も完了しており、海外保険を今後の成長の大きな柱としています。
つまり「海外に強い」という特徴は、もはや東京海上HDだけのものではありません。
MS&ADも海外を伸ばしている。
SOMPOも海外保険を大きくしている。
だからこそ東京海上HDを見るときには、海外比率が高いという結果だけではなく、どうやって海外事業をつくってきたのかまで見る必要があります。
MS&ADの特徴|巨大な国内基盤をどう変えていくか
東京海上HDと比較すると、国内損害保険事業の存在感が大きいことが特徴です。
一方でMS&ADも、国内市場だけで成長し続けることが難しいことは認識しており、MS Amlinを中心とした海外保険、再保険、アジア、海外生命保険などを拡大してきました。
2025年度予想では海外事業のグループ修正利益を2,435億円とし、前年度から大きな増益を見込んでいました。国内損保で安定した基盤を持ちながら、海外を次の利益成長の柱へ育てようとしている構造です。
そしてMS&ADを見るうえで、今後特に重要になるのが国内事業の再編です。
巨大な事業基盤を持っていることは大きな強みですが、複数の損害保険会社を抱えていることで、システムや拠点、業務などが重複する部分も生まれます。
だからMS&ADは、単に保険料を増やすだけではなく、巨大な国内基盤をどれだけ効率の良い事業へ変えられるのかが大きなテーマになります。
東京海上HDが海外M&Aによって異なる専門性を取り込みながら利益源を分散してきた会社だとすれば、MS&ADは、国内で持つ巨大な顧客・事業基盤を磨きながら海外成長を取り込んでいく会社、と見ることができそうです。
SOMPOの特徴|保険とウェルビーイングをつなぐ
もちろん、損保ジャパンを中心とした国内損害保険や海外保険が大きな柱です。
特に海外ではSompo Internationalを成長させ、さらに2026年2月にはAspen Insuranceの買収を完了しました。2026年度予想では海外保険事業の修正利益を2,800億円としており、国内損害保険事業の1,800億円を上回る計画です。
ここだけを見ると、東京海上HDと同じように海外保険を伸ばす会社に見えます。
しかしSOMPOにはもう一つ、かなり特徴的な事業があります。
それが介護を含むウェルビーイング事業です。
SOMPOは国内生命保険に加えて介護事業をグループの主要事業として持ち、現在は「SOMPO P&C」と「SOMPOウェルビーイング」という二つの大きな事業領域で成長しようとしています。
保険は、「何かが起きたときのお金」を支える事業です。
一方、介護や健康などのウェルビーイングは、人の生活そのものに長く関わる事業です。
この二つをつなげようとしているところに、SOMPOらしさがあります。
東京海上HDもソリューション事業を広げていますが、SOMPOはすでに大規模な介護事業を持っているという点で、目指す姿が少し違います。
東京海上HDは「世界のさまざまなリスクへ広げる」。
SOMPOは「保険から、人の暮らしや健康へ広げる」。
どちらも「保険だけではない会社」を目指していますが、広げる方向が違うのが面白いところです。
比較して見えてくる、東京海上HDらしさ
ROEの目標水準を見ても、3社とも現在はおおむね13%前後を意識しています。
政策保有株式を減らし、その資本を成長投資や株主還元へ振り向ける方向も共通しています。
つまり、表面的な経営戦略だけを見ると3社はかなり似ています。
だからこそ、東京海上HDの特徴は「海外にも進出していること」ではありません。
企業研究をしてきた中で、私は、
海外の利益比率がすでに約3分の2まで高まっていること。
スペシャルティ保険という専門性の高い領域を大きな利益源にしていること。
M&Aした会社を完全に本社型へ統合せず、Federated Modelによって専門性や人材を残していること。
それぞれ異なる地域・商品・顧客を組み合わせ、リスク分散そのものを競争力にしていること。
この組み合わせに東京海上HDらしさがあると思います。
東京海上HD自身も、現在の基本戦略として「グローバルなリスク分散」と「グローバルなグループ一体経営」を掲げています。
「東京海上が3社の中で一番優れている」と考える必要はありません。
MS&ADには大きな国内基盤があり、SOMPOには海外保険とウェルビーイングという特徴があります。
その中で東京海上HDは、
世界各地の異なる専門性を持つ保険会社をつなぎ、リスクそのものを分散しながら利益をつくる。
この仕組みを長い時間をかけて築いてきた会社だと見えてきます。
そして、これまでの東京海上HDを支えてきた保険市場そのものも今、大きく変わろうとしています。
自然災害は激甚化し、サイバー攻撃のような新しいリスクも増えています。AIやデータによって、事故が起きる前にリスクを予測できる可能性も広がっています。
東京海上HDの強みが10年後も強みであり続けるのか。
ここからは、東京海上HDの今後と将来性を考えていきます。

3社とも大きな損保グループですが、強さのつくり方は違うのですね。
東京海上HDは、世界中の専門性をつなぎ、リスクを分散してきたところに特徴がありそうです。
東京海上HDだけでなく、MS&ADやSOMPOなど業界全体の位置関係を見ながら企業研究したい方には、「会社四季報 業界地図」も便利です。私は一社だけを見るのではなく、競合企業や周辺業界と比べながら会社の強みを見るようにしています。
東京海上HDの将来性|今後も成長できるのか
では、その強みは10年後も通用するのでしょうか。
保険会社を取り巻く環境は、むしろこれから難しくなっていく可能性があります。気候変動によって自然災害が激甚化し、企業活動がデジタル化するほどサイバー攻撃の影響も大きくなります。AI、自動運転、再生可能エネルギーなど新しい技術が広がれば、これまで存在しなかったリスクも生まれていきます。
一見すると、リスクが増えることは保険会社にとって成長機会に見えます。しかし、災害が増えれば保険への需要が高まる一方で、保険会社が支払う保険金も増えます。新しいリスクを引き受けても、発生確率や損失額を正しく予測できなければ利益にはなりません。
だから東京海上HDの今後を見るうえで重要なのは、「リスクが増えるか」ではなく、「増え続けるリスクを理解し、適切な価格で引き受け、さらに損害そのものを減らせるか」だと思います。
東京海上HDが2026年に発表した「Aspiration 2035」では、2035年に向けて利益を現在の2倍以上へ伸ばし、純利益ベースで世界の生損保グループ5位以内、ROEもグローバル上位水準を目指す姿を示しています。そのために保険引受・資産運用・ソリューションへテクノロジーを組み合わせ、「保険にとどまらないソリューションパートナー」になる方針です。
かなり大きな目標ですが、その実現には従来の保険事業を伸ばすだけでは足りません。東京海上HDが、変化する社会の中で新しく生まれる「いざ」をどこまで理解し、新しい価値や利益へ変えられるのか。ここからは、その可能性を見ていきます。
自然災害・気候変動で保険はどう変わる?
日本では台風、豪雨、洪水などによって大きな被害が発生することがあります。海外に目を向ければ、ハリケーン、山火事、洪水など、東京海上グループが保険を引き受けている地域にもさまざまな自然災害があります。
気候変動によってこうした災害が激甚化すれば、「保険に入りたい」という需要は増えるかもしれません。しかし、「災害が増える=保険会社が儲かる」ではありません。
むしろ保険会社にとっては非常に難しい問題です。これまで100年に一度と考えていた災害が想定より頻繁に起きるようになれば、過去のデータをもとに設定していた保険料では十分ではなくなる可能性があります。保険料を上げれば収益性を守れるかもしれませんが、高くなりすぎれば顧客が加入できなくなる。一方で保険料を十分に引き上げなければ、巨大災害が発生したときに保険会社が大きな損失を抱えることになります。
つまり、気候変動によって問われるのは、保険を売れるかではなく、変化したリスクを正しく価格へ反映しながら、保険を提供し続けられるかです。
東京海上HDも、気候変動に伴う自然災害の激甚化を、顧客や社会だけではなく、自社の保険引受や資産運用にも影響する重要な経営課題だと位置づけています。さらに、保険金を支払うだけではなく、防災・減災、早期復旧、再発防止まで価値を広げる必要があるとしています。
ここで、東京海上HDが進めてきた「グローバルなリスク分散」ともつながります。日本の自然災害だけに利益が左右される会社より、北米、欧州、アジアなど異なる地域や商品を持つ方が、一つの巨大災害による影響をグループ全体で吸収しやすくなります。
ただし東京海上HDは、リスクを世界へ分散するだけではなく、そもそも被害を小さくできないかというところまで事業にしようとしています。
東京海上グループでは、自然災害を重要な社会課題と位置づけ、「東京海上レジリエンス」などを通じて防災・減災のソリューションを提供しています。さらに建設コンサルティング大手のID&Eをグループへ加え、東京海上が持つ保険金支払データやリスク情報と、ID&Eが持つ工学技術を組み合わせる取り組みも進めています。
例えば洪水で工場が浸水した場合、従来なら保険金を支払い、元の状態へ戻すところまでが保険会社の役割でした。しかし同じ状態へ戻すだけでは、次の大雨でまた浸水するかもしれません。そこで原因を調べ、防水壁や防水扉などの対策を行い、次に同じ規模の災害が来ても被害を抑えられる状態にする。東京海上HDは、こうした考え方を「Build Back Better」として進めています。
被害を減らせれば顧客にとっても良く、保険金支払いを減らせれば東京海上にとっても良い。そして災害に強い社会になれば、将来も保険を提供し続けやすくなります。
災害に強い社会をつくるという視点では、保険会社だけでなく街をつくる企業の役割も重要です。防災、エネルギー、デジタル技術まで含めて街を育てている三井不動産の強みを見ると、東京海上HDが目指すレジリエンスとのつながりも見えてきます。
自然災害の増加は東京海上HDにとって大きなリスクです。しかし同時に、「保険金を払う会社」から「損害そのものを減らす会社」へ進化できるかどうかが、今後の成長にもつながりそうです。
サイバーリスクは新しい保険市場になるのか
企業活動のデジタル化が進み、クラウド、AI、オンラインサービスなどが当たり前になるほど、サイバー攻撃によって受ける被害も大きくなります。顧客情報が流出したり、会社のシステムが停止したりすれば、工場や物流が止まり、取引先まで被害が広がる可能性があります。場合によっては身代金を要求されることもあります。
こうした事故では、壊れたパソコンを買い直せば終わりではありません。原因調査、システム復旧、顧客対応、損害賠償、事業停止による損失など、さまざまな費用が発生する可能性があります。
そこで広がっているのがサイバー保険です。
東京海上グループでは、サイバー攻撃による第三者への賠償責任や原因調査・システム復旧などの費用をカバーする保険に加えて、セキュリティ診断やネットワークの遠隔監視など、事故が起きる前の対策まで組み合わせる取り組みを進めています。2026年には、サプライチェーン全体のサイバー対策を支援するプログラムも開始しました。
これは、自然災害で見た流れとよく似ています。
サイバー攻撃が起きたら保険金を払うだけではなく、攻撃される前に弱点を見つけ、セキュリティを改善し、日常的に監視する。何か起きれば迅速に復旧する。こうした事前・事後のサービスまで提供することで、東京海上HDは一件の保険契約から提供できる価値を広げようとしています。
一方で、サイバー保険にも難しさがあります。
自然災害であれば「東京で台風が起きてもニューヨークでは晴れている」という地域分散がある程度機能します。しかし大規模なサイバー攻撃では、世界中の企業が同じクラウドサービスやソフトウェアを使っていることで、一つの脆弱性から同時に多くの保険金支払いが発生する可能性があります。
つまりサイバーは、成長市場であると同時に、どこまで損失が広がるか読みづらいリスクでもあります。
だからこそ、前に見た東京海上HDの「リスクを見る力」が重要になります。どんな企業なら引き受けられるのか。どんな対策をしていればリスクを下げられるのか。どこまで一つの事故が広がる可能性があるのか。そのリスクなら保険料はいくら必要なのか。
新しい市場が生まれるほど、単に商品を売る力ではなく、新しいリスクを理解する専門性が競争力になっていくと思います。
デジタル化が進むほど、保険で損失に備えるだけでなく、通信やデータそのものを安全に支えるインフラも重要になります。通信・データセンター・AI基盤を支えるNTTの強みと合わせて見ると、デジタル社会を「支える側」と「リスクを引き受ける側」の関係も分かりやすくなります。
保険会社から「ソリューション企業」へ
これは東京海上HDの今後を考えるうえで、かなり大きな変化だと思います。
これまでの損害保険会社の基本的な役割は、顧客から保険料を受け取り、事故が起きたら保険金を支払うことでした。しかし東京海上HDが2035年に向けて描いているのは、保険、資産運用、ソリューションという三つの領域にテクノロジーを融合させる会社です。会社自身も、保険にとどまらない「ソリューションパートナー」になることを目指しています。
特に分かりやすいのが、防災・減災の領域です。
東京海上には、長年の保険引受や保険金支払いを通じて蓄積してきた大量のリスク情報があります。どこで洪水が起きたのか。どのような建物が被害を受けたのか。どのくらいの損失が発生したのか。どんな企業が復旧に時間を要したのか。こうしたデータは、本来なら保険料を設定したり、保険金を支払ったりするために使われてきました。
しかし、そのデータに工学技術や専門人材を組み合わせれば、「どうすれば次の事故を防げるか」を提案することもできます。
東京海上HDはID&Eのグループ入りによって、防災・減災、液状化対策、水害対策、都市・地域開発、さらにはデータセンター開発の総合コンサルティングまで領域を広げています。
AI時代に急拡大しているデータセンターは、建物だけではなく、電力、通信、冷却、防災など多くの企業によって支えられています。どんな企業に利益が流れるのかは、データセンター関連銘柄の記事でも詳しく整理しています。
2026年度のIRでも、保険金支払データとID&Eの工学技術を組み合わせることを、防災・減災領域における独自の提供価値として強調しています。
ここが面白いところです。
保険会社だからこそ、事故が起きる場所や原因を知っている。多くの顧客との接点があり、実際に事故が起きた瞬間にも関わります。その知識を使って事故そのものを減らせれば、顧客にも保険会社にもメリットがあります。
東京海上HDのCEOも、保険がカバーできていない損害そのものを減らす領域を、重要な成長機会と位置づけています。
ただし、保険会社として持っている顧客基盤やデータがあるからといって、コンサルティングや防災サービスで自動的に利益を出せるわけではありません。専門人材を確保できるか、顧客がお金を払ってでも使いたいサービスをつくれるか、そして保険会社だからこそ持つ情報を本当に価値へ変えられるかが問われます。
私は東京海上HDの将来性を見るうえで、ソリューション事業が「良い取り組み」で終わるのか、「新しい利益の柱」まで育つのかを重要なポイントとして見ていきたいと思います。
AI・データは東京海上HDをどう変える?
保険会社とAIは、一見するとあまり関係がないように見えるかもしれません。しかし、ここまで東京海上HDを企業研究してきた内容を振り返ると、実はかなり相性があります。
保険会社は、リスクを見つけ、事故の発生確率を考え、保険料を決め、事故が起きたら損害を調べ、大量の契約や問い合わせに対応しています。つまり保険という仕事は、膨大なデータを使って判断する仕事でもあります。
東京海上グループではすでに、契約ごとの将来の事故発生確率を予測するAIや、保険料設定を高度化するAI、事故対応を支援するAIなどを導入しています。さらにグループ横断の「AI-HUB」で研究開発を進め、保険引受、事故対応、コールセンターなど各領域でAIを競争力の強化へ使っています。
生成AIも単なる文章作成ツールとして使っているわけではありません。東京海上HDでは、機密情報を扱える独自環境のChatGPTを開発し、商品規定や約款を学習した保険特化型の対話AIも活用しています。さらにOpenAIとの戦略的連携も進め、AIを複数の業務へ組み込み、データ処理や定型業務の自動化だけでなく、顧客データを活用したサービスの高度化まで目指しています。
ただ、私はAIによる「業務効率化」以上に注目したいところがあります。
それが、リスクを見る力そのものをAIで高められるかです。
これまで保険会社は、過去の事故データや専門家の経験からリスクを判断してきました。そこへAIを組み合わせれば、人間だけでは見つけにくかった事故の兆候や、顧客ごとの細かな違いを発見できる可能性があります。
リスクをより正確に見られれば、適切な保険料を設定しやすくなり、危険な契約を見極めやすくなります。事故が起きそうな顧客には事前に対策を提案し、実際に事故が発生すれば素早く支援できるかもしれません。
こうしたことが実現すれば、AIは単なるコスト削減ツールではなく、東京海上HDの強みである「リスクを見る力」をさらに強くする技術になります。
一方で、AIを使えば自動的に優位になるわけでもありません。同じAI技術は競合他社も利用できるからです。
AIそのものではなく、自社が持つデータや専門知識とどう組み合わせるかが競争力になるという点は、他の企業にも共通します。AIを社会インフラやセキュリティなどへ組み込んでいるNECの強みと比べてみても、同じAIでも企業によって価値の生み出し方が違うことが分かります。
だから重要なのはAIそのものではなく、AIへ何を学ばせることができるのかだと思います。
140年以上蓄積してきた保険引受の知見、世界中の保険会社が持つデータ、自然災害や事故に関する情報、スペシャルティ保険の専門家、そして顧客との長い接点。こうした東京海上HD独自の蓄積とAIを組み合わせられるのであれば、簡単には真似できない価値になる可能性があります。
2035年に向けて東京海上HDが目指しているのは、保険をAIに置き換える会社ではありません。人が積み上げてきた知識とデータにテクノロジーを重ね、これまで以上にリスクを理解できる会社になること。
自然災害、サイバー、新しい技術など、社会が変われば「いざ」も変わっていきます。東京海上HDが今後も成長するためには、新しいリスクをただ保険商品にするだけではなく、リスクを予測し、減らし、それでも残るリスクを適切に引き受ける会社へ進化できるかが問われます。

新しいリスクが増えることは、チャンスだけではないのですね。
東京海上HDが今後も成長できるかは、リスクを予測し、減らし、適切に引き受けられるかにかかっていそうです。
東京海上HDの業績推移|利益はどこまで伸びているのか
そこで、ここからは東京海上HDの業績を数字で確認していきます。
結論から見ると、東京海上HDの利益はここ数年で大きく伸びています。2022年度には4,440億円だった修正純利益は、2023年度に7,116億円、2024年度には1兆2,150億円まで拡大し、2025年度も1兆2,048億円となりました。修正ROEも2022年度の11.1%から、2023年度15.5%、2024年度22.7%、2025年度22.0%へ上昇しています。
数字だけを見ると、かなり急速に利益を伸ばしている会社です。
ただし、この推移をそのまま「保険事業だけで利益が3倍近くになった」と受け取るのは少し違います。2024年度や2025年度には、東京海上HDが長年保有してきた政策保有株式の売却が大きく進み、その売却益も従来の修正純利益に含まれていました。
だから今回の企業研究では、利益の大きさだけではなく、その利益がどこから生まれているのかまで見ていきたいと思います。
利益はなぜここまで伸びたのか
事業別利益を見ると、International事業は2022年度の2,186億円から、2023年度4,369億円、2024年度4,284億円、2025年度4,739億円へ拡大しています。一方、国内損害保険を中心とするJapan P&C事業も、2023年度の1,014億円から、2024年度1,269億円、2025年度1,732億円へ改善しています。
つまり東京海上HDの利益成長は、海外だけに頼っているわけではありません。
海外では、北米を中心とするスペシャルティ保険などが大きな利益を生み出し、国内では自動車保険や火災保険の収益性改善が進む。さらに、保険事業を通じて保有する資産から得られる運用収益もあります。
前に見たように、東京海上HDは「保険をたくさん売る」だけではなく、リスクを見極め、適切な価格で引き受けることを重視しています。保険料を増やすだけではなく、その保険からしっかり利益を残せるようにすることが、国内外の利益成長につながっています。
ただし、近年の修正純利益を押し上げてきたもう一つの大きな要因があります。それが政策保有株式の売却です。
政策保有株式とは、取引関係の維持などを目的として企業が長期間保有してきた他社株式のことです。東京海上HDも多くの日本企業の株式を保有してきましたが、現在はこれを大幅に削減しています。
政策保有株式の売却額は、2023年度の2,187億円から、2024年度には9,224億円、2025年度も7,456億円となりました。2026年度についても4,300億円の売却を予定しています。
株価が上昇している中で長年保有してきた株式を売却すれば、大きな売却益が発生します。そのため、近年の東京海上HDの利益が急拡大した背景には、保険事業の成長だけではなく、政策保有株式の売却益も含まれています。
ただ、政策保有株式を売却すること自体が悪いわけではありません。
むしろ、株式として長期間眠っていた資本を解放し、その資金を海外M&Aや既存事業への成長投資、配当、自社株買いなどへ振り向けることができれば、企業全体の資本効率を高められます。
一方で、政策保有株式は一度売れば、同じ株式を何度も売ることはできません。
だから長期投資家として東京海上HDを見るなら、政策保有株式の売却益がなくなっても、保険事業そのものの利益を伸ばし続けられるのかを確認する必要があります。
2026年度から「修正純利益」の見方が変わる
東京海上HDは2025年度末から国際会計基準であるIFRSへ移行し、それに合わせて修正純利益や修正ROEの定義も変更しました。
これまで使われていた修正純利益には、政策保有株式を売却したときのキャピタルゲインなども含まれていました。一方、新しい修正純利益では、こうしたキャピタル損益などを除き、保険事業や資産運用などからどれだけ継続的な利益を生み出しているのかを、より分かりやすく見る考え方になっています。
そのため、先ほど見た2025年度までの修正純利益と、2026年度予想の9,500億円をそのままつなげると、「1兆2,048億円から9,500億円へ利益が減る」と見えてしまいます。
しかし、これは業績が急激に悪化するという意味ではなく、利益を測る「ものさし」そのものが変わったということです。
新しいIFRSベースの定義へ過去の数字を組み替えると、東京海上HDの修正純利益は次のようになります。
| 2024年度 | 2025年度 | 2026年度予想 | |
|---|---|---|---|
| IFRS修正純利益 | 8,120億円 | 8,815億円 | 9,500億円 |
| 修正ROE | 13.1% | 12.9% | 13.0% |
この数字で見ると、景色はかなり変わります。
政策保有株式の売却益などを除いた新しい基準でも、修正純利益は2024年度の8,120億円から2025年度8,815億円へ増え、2026年度には9,500億円まで成長する計画です。
つまり東京海上HDを見るうえで重要なのは、「政策保有株式を売ったから利益が増えている会社」なのか、それとも「株式売却益を除いても本業で利益を増やせる会社」なのかという点です。
現在の会社計画を見る限り、東京海上HDは後者を目指しています。
もちろん9,500億円はまだ会社予想であり、実際に達成できるかは今後の決算で確認する必要があります。それでもIFRSへの移行によって、一時的な株式売却益と継続的な事業から生まれる利益を以前より分けて考えやすくなったことは、個人投資家にとっても分かりやすい変化だと思います。
ROE13%をどう見る?
前の基準では2024年度22.7%、2025年度22.0%だったため、「ROEが大きく下がったのでは?」と感じるかもしれません。しかし、ここも修正純利益と同じように定義が変わっているため、そのまま比較することはできません。
IFRSの新しい定義で見ると、2024年度13.1%、2025年度12.9%、2026年度予想13.0%です。
ROEは、株主から預かった資本を使ってどれだけ効率よく利益を生み出しているのかを見る指標です。
ただ、保険会社の場合は単純にROEを高くすればいいわけではありません。巨大な自然災害が発生したときに多額の保険金を支払えるよう十分な資本を持つ必要がありますし、金融市場の急変や世界的な危機が起きても会社が耐えられる財務基盤を維持する必要があります。
だから東京海上HDに求められるのは、資本をできるだけ減らしてROEを高めることではありません。必要な安全性を維持しながら、余っている資本を成長投資や株主還元へ振り向け、資本全体を効率よく働かせることです。
政策保有株式の売却も、この考え方につながっています。
長期間保有していた株式を減らせば、それまで株式変動リスクに備えて必要だった資本も減らすことができます。その資本を海外M&Aや既存事業への投資、自己株式取得などへ振り向け、より高い利益を生み出せれば、会社全体の資本効率は改善します。
ここまで見てきた「グローバルなリスク分散」も同じです。
異なる地域や商品へリスクを分散することで、同じ利益を生み出すために必要な資本を抑えられれば、余った資本を次の成長へ使うことができます。
東京海上HDの資本政策を見ると、利益を増やすだけではなく、持っている資本をどこへ置けば最も企業価値を高められるのかまで考えていることが分かります。
今後の決算でも、利益額だけではなく、修正ROE13%前後を維持しながら利益を成長させられているかを確認したいと思います。
2026年度第1四半期は順調なのか
東京海上HDが2026年8月12日に発表した第1四半期決算では、Total Business Volumeが2兆4,060億円となり、前年同期比12%増加しました。一方、修正純利益は2,613億円で、前年同期の2,710億円から4%減少しています。
利益が前年同期より減っているため、一見すると悪い決算にも見えます。しかし会社側は、トップライン・ボトムラインともに「概ね計画通り」と評価しています。通期の修正純利益予想9,500億円に対する進捗率は28%で、第1四半期の時点では計画達成に向けて大きく崩れている状況ではありません。
事業別に見ると、International事業の修正純利益は前年同期の1,505億円から1,643億円へ9%増加しました。海外保険では保険料を伸ばしながら引受規律を維持しており、International全体のコンバインドレシオは88.8%、北米のSpecialty P&Cでは85.7%となっています。
一方、日本事業の修正純利益は前年同期の1,161億円から988億円へ減少しました。
ここにも、これまで見てきた東京海上HDの事業構造が表れています。国内事業の利益が減少する一方でInternational事業が増益となり、グループ全体では通期計画に沿って進んでいます。
地域や保険商品の異なる事業を持つことで、一つの市場だけに会社全体の利益が左右されにくくなる。前に見た「グローバルなリスク分散」は、理論上の強みだけではなく、こうした実際の業績にも表れているように見えます。
ただし、第1四半期だけで一年間の業績を判断することはできません。
損害保険会社の利益は、台風やハリケーンなどの自然災害、為替、金融市場、保険料率などによって四半期ごとに大きく動く可能性があります。
だから今後の決算で私は、修正純利益9,500億円へ順調に近づいているか、International事業の収益性を維持できているか、国内損保の利益改善が進んでいるか、そして修正ROE13%を達成できるかを見ていきたいと思います。
東京海上HDの業績は確かに成長しています。
しかし長期投資先として本当に重要なのは、過去に1兆円を超える利益を出したことではありません。
政策保有株式の売却益がなくなっても、本業で利益を増やし続けられるか。
2026年度は、その力を確認するうえでかなり重要な一年になりそうです。

利益は大きく伸びていますが、大切なのはこれからですね。
政策保有株式の売却益に頼らず、本業の力で9,500億円を実現できるのか、今後の決算も確認していきたいです。
東京海上HDのリスク|強い会社でも何が崩れると危ないのか
しかし、投資先として考えるなら強みだけを見るわけにはいきません。
東京海上HDは、そもそもリスクを引き受けることで利益を生み出している会社です。自然災害が想定を超えれば保険金支払いが増えますし、海外で保険料の設定を誤れば利益率が低下します。巨大な資産を運用しているため、金利や信用市場の変化にも影響を受けます。海外M&Aも、買収した会社が期待通りの利益を生み出さなければ強みではなくなります。
東京海上HD自身も、現在の経営環境について、自然災害の激甚化、インフレ、地政学リスク、金融市場や金利の変動などを想定されるリスクとして挙げています。さらに、サイバーやAI・データガバナンス、法令遵守・コンダクトなど、数字だけでは測りにくいリスクもERM(統合的リスク管理)の対象としています。
今回の企業研究で特に確認しておきたい東京海上HDのリスクは、次のようなものです。
- 自然災害が想定以上に増えるリスク
- インフレによって保険金の支払額が増えるリスク
- 海外事業・M&Aが期待通りに成長しないリスク
- 金利・信用市場・為替など資産運用に関するリスク
- サイバー・情報漏えい・AIなど新しいリスク
- 不適切な業務や法令違反によって信頼を失うリスク
大切なのは、「リスクがあるから東京海上HDは危ない」と考えることではありません。
どんなリスクを抱え、そのリスクをどこまで管理できているのか。
保険会社を評価するときには、むしろここを見る必要があると思います。
自然災害が想定を超えたらどうなる?
損害保険会社は、事故や災害が起きたときに保険金を支払います。通常の事故であれば、多くの契約者から集めた保険料の中から支払うことでリスクを分散できます。しかし巨大な台風や地震では、同じ時期に何万件もの契約で被害が発生する可能性があります。
特に難しいのは、気候変動によって過去の経験だけでは将来の災害を予測しにくくなっていることです。
2026年度の東京海上HDは、グループ全体で自然災害による損失を2,000億円程度予算に織り込んでいます。会社が示している過去10年間の平均は1,609億円で、それを上回る水準をあらかじめ想定しています。
それでも、実際の災害が想定を超えれば利益は減ります。
ここで前に見た「グローバルなリスク分散」が重要になります。日本で巨大台風が発生しても、北米のすべての保険契約が同じ被害を受けるわけではありません。地域や商品を分散することで、一つの災害がグループ全体へ与える影響を小さくできます。
また東京海上HDは、保有するリスクをすべて自社だけで抱えているわけではなく、再保険を使って巨大災害時の損失を他の保険会社へ移す仕組みも利用しています。公式のリスク管理でも、自然災害リスク管理を高度化するとともに、再保険スキームを見直していることを説明しています。
ただし、世界へ分散し、再保険を使えば自然災害リスクがなくなるわけではありません。
むしろ今後重要なのは、災害の発生頻度や規模が変化しても、保険料を適切に見直し、再保険を確保し、防災・減災まで含めて損害を抑えられるかだと思います。
「巨大災害が来るかどうか」を予測するのではなく、「巨大災害が来ても耐えられる会社であり続けられるか」。
長期投資家としては、こちらを見た方が東京海上HDの本当のリスク管理力を確認できそうです。
海外で稼ぐ会社だからこそ、海外特有のリスクも大きい
しかし、海外事業が大きくなったということは、海外特有のリスクも東京海上HDの業績へ大きな影響を与えるようになったということでもあります。
特に注目したいのが、米国などで進むソーシャルインフレーションです。
ソーシャルインフレーションとは、物価が上がる一般的なインフレだけではなく、訴訟の大型化や賠償額の上昇などによって、保険会社が支払う損害額が長期的に増えていく現象です。過去に設定した保険料では、将来発生する賠償金を十分に賄えなくなる可能性があります。
東京海上HDも2026年度の経営環境として、長引くインフレとソーシャルインフレーションによる損害コストの上昇をリスクに挙げています。そのため、予想される損害コストの上昇以上に保険料率を引き上げたり、高額な補償限度額を持つ契約を削減したりする対応を進めています。
これは、前に見た「リスクを見る力」が本当に問われるところです。
事故が起きた今年だけを見て保険料を決めるのではなく、数年後に裁判が終わったとき、どれくらいの賠償金を支払う可能性があるのかまで考える必要があります。ここを見誤れば、契約を取った時点では利益が出ているように見えても、数年後に過去の契約から大きな損失が発生する可能性があります。
さらに、地政学リスクもあります。
戦争や国際情勢の悪化によって事業環境が変化する可能性があり、東京海上HDも2026年度の想定リスクとして地政学リスクを挙げています。戦争リスクについては原則として保険対象から除くなどの対応も取っています。
そして海外事業が大きい以上、為替も無関係ではありません。
海外子会社がドルなどで利益を稼げば、最終的には東京海上HDの連結業績として円へ換算されます。円安になれば円換算した海外利益が大きく見えやすく、逆に円高になれば押し下げられる可能性があります。
つまり、海外は東京海上HD最大の成長エンジンであると同時に、日本国内だけで事業をしていた頃にはなかったリスクを抱える場所でもあるということです。
M&Aが強みだからこそ、「高く買うリスク」にも注意したい
PHLY、Delphi、HCC、Pureなど、専門性の高い保険会社をグループへ加え、それぞれの人材や顧客、ノウハウを残しながら成長させてきたことは、これまで見てきた東京海上HDの大きな強みです。
しかしM&Aには、常に「買収した金額以上の価値を生み出せるのか」というリスクがあります。
どれだけ良い会社でも、高すぎる価格で買えば投資としてのリターンは低下します。買収後に期待していた利益が出なかったり、優秀な経営者や人材が離れたり、現地の保険市場が悪化したりすれば、買収時に想定した価値を回収できない可能性もあります。
東京海上HD自身も、このリスクを理解しているからこそ、M&Aでは「カルチャーフィット」「高い収益性」「強固なビジネスモデル」など厳しい基準を設けています。2026年度予想を使ったこれまでの大型M&AのROIは27.3%としていますが、一方で市場の買収価格が高い局面では、無理に買収せず機会を待つ方針も示しています。
ここは、今後の東京海上HDを見るうえでかなり重要だと思います。
これまでM&Aが成功してきたからといって、次のM&Aも必ず成功するわけではありません。
むしろ海外利益が大きくなり、Aspiration 2035でさらに成長を目指すほど、「次にどこへ資本を使うのか」という判断は重要になります。
政策保有株式の削減によって新しい投資余力も生まれています。その資本を高い収益を生む事業へ振り向けられれば企業価値は高まりますが、成長を急ぐあまり高値で企業を買えば、逆に株主価値を毀損する可能性もあります。
M&Aをたくさんできることではなく、「買わない方がいいときに買わない判断ができるか」。
私は、そこも東京海上HDのM&A力を見る重要なポイントだと思います。
保険会社なのに、金融市場の影響も大きい
保険会社は受け取った保険料をすべて現金で置いているわけではなく、将来の保険金支払いに備えながら債券や株式、クレジット商品などさまざまな資産へ投資しています。
そのため、市場環境が大きく変化すれば資産運用にも影響が出ます。
東京海上HDが2026年度の経営環境で挙げているのは、金融市場の変動によって米国のプライベートクレジットなどで損失が増えるリスクや、金利変動による影響です。例えば日本の金利が急上昇すれば債券に減損が発生する可能性があり、逆に米国で金利が低下すれば、新しく投資する債券などから得られる運用収益が減る可能性があります。
ただ、ここも東京海上HDは何も対策をしていないわけではありません。
生命保険などでは、将来支払う保険金の期間と保有資産の期間を合わせるALM(資産・負債総合管理)によって、金利変動の影響を抑えています。また政策保有株式を大幅に削減することで、株価下落によって会社の資本が大きく変動するリスクも減らそうとしています。
つまり東京海上HDを見るときは、保険料や保険金だけではなく、どんな資産を持ち、どれくらい市場リスクを取っているのかも確認する必要があります。
これまで資産運用は東京海上HDの利益を支えてきました。
だからこそ、資産運用で高い収益を狙いすぎていないか、金利や信用市場が悪化したときにも耐えられるのか。ここも保険引受と同じように、「どこまでリスクを取るか」という判断が重要になります。
一番怖いのは「リスクを見誤ること」と「信頼を失うこと」
一つは、リスクそのものを見誤ることです。
保険会社は、自然災害、事故、訴訟、サイバー、金融市場など、将来起こるかもしれない出来事に価格を付けて引き受けています。どれだけ高度なデータやAIを使っても、未来を完全に予測することはできません。
これまで安全だと考えていたリスクが急に大きくなるかもしれない。
過去のデータでは十分だった保険料が足りなくなるかもしれない。
複数のリスクが同時に発生する可能性もあります。
だから東京海上HDは、単にリスクを避けるのではなく、リスク・資本・利益を一体で見るERMを経営の土台にしています。2026年3月末の新しい基準によるESR(経済価値ベースの健全性を示す指標)は268%で、会社が設定している目標水準の190%以上を上回っています。2026年度に予定する4,000億円の自社株買いを反映しても255%と試算しており、現時点では十分な資本余力を持っています。
ただし、資本が厚いからすべて安心というわけではありません。
もう一つ重要なのが、社会からの信頼を失うリスクです。
保険は、何か起きたときに保険会社が約束どおり支払ってくれるという信頼がなければ成り立ちません。顧客情報を預かり、代理店や企業と長期間取引するビジネスでもあります。
東京海上HDも、東京海上日動で発生した一連の不適切事案を踏まえ、「法令遵守・コンダクトリスク」への対応を強化し、重要情報の漏えいも重要なリスク対応項目へ加えています。また、自然災害だけではなく、サイバー攻撃、システム障害、重要情報の漏えい、重大な法令違反などを想定した危機対応訓練も行っています。
さらにAIの利用が広がれば、個人情報や機密情報の管理、AIによる判断の適切性など、新しい問題も増えます。東京海上HD自身も、AI・データガバナンスの不備をエマージングリスクの一つとして認識しています。
今回の企業研究で私は、東京海上HDの根本的な強みを「リスクを見る力」だと考えました。
だからこそ、その裏返しとして一番注意したいのも同じです。
リスクを見誤らないか。
そして、保険会社にとって最も大切な信頼を失わないか。
自然災害も金融市場も完全にコントロールすることはできません。それでも、どこまでのリスクなら引き受けられるのかを考え、十分な資本を持ち、問題が起きたときに正しく対応することはできます。
東京海上HDの強さが本物かどうかは、順調なときではなく、大きなリスクが実際に表面化したときにこそ分かるのだと思います。

東京海上HDはリスクを引き受ける会社だからこそ、自分たちのリスク管理が何より重要なのですね。
利益が伸びているときだけでなく、想定外が起きたときの強さも見ていきたいです。
東京海上HDの株価分析|今の株価は高いのか、安いのか
反対に、一時的な不安から株価が下がっていても、長期的な利益成長が変わっていなければ投資機会になるかもしれません。
2026年8月27日の東京海上HDの終値は7,629円でした。年初来高値は7月29日の8,468円、年初来安値は1月29日の5,529円です。同日時点の会社予想PERは17.57倍、PBRは1.77倍、予想配当利回りは3.21%となっています。なお、この株価は2026年10月に予定されている株式分割前の価格です。
数字だけを見ると、極端に割安な株には見えません。
一方で東京海上HDは、2026年度に修正純利益9,500億円、修正ROE13.0%を見込み、海外を中心に利益成長を続けています。配当や自社株買いによる株主還元も大きく、単純にPERだけを見て「高い」と判断するのも少し違うと思います。
ここでは、現在の株価が東京海上HDの利益成長や株主還元に対してどの程度の評価になっているのかを考えてみます。
株価はどこまで上がってきたのか

東京海上HDの株価を見ると、2026年1月29日には年初来安値となる5,529円まで下落しましたが、その後は上昇し、7月29日には8,468円まで買われました。その後は少し調整し、8月27日時点では7,629円となっています。
この株価上昇の背景には、一つの材料だけがあるわけではありません。
海外保険を中心とした利益成長、国内損保の収益性改善、政策保有株式の削減による資本効率の改善、増配、自社株買いなど、これまで企業研究で見てきた複数の要因があります。
特に重要なのは、東京海上HDが「大量の政策保有株式を持つ国内損保会社」から、より資本効率を意識したグローバル保険グループへ変わろうとしていることです。
政策保有株式を減らせば、そこに使われていた資本を成長投資や株主還元へ振り向けられます。海外事業が利益を伸ばせば、日本だけに依存しない利益構造も強くなります。さらに利益が増えれば配当も増やせるため、投資家から見た企業価値も高まりやすくなります。
つまり最近の株価上昇には、過去の利益だけではなく、「これからも利益と資本効率を伸ばせる会社なのではないか」という期待も含まれていると考えられます。
だから株価が上がっていること自体を「強い会社だから当然」と考えるのではなく、その期待に今後の利益成長が追いつけるかを見る必要があります。
PER17.57倍は高いのか?
2026年8月27日時点の東京海上HDの会社予想PERは17.57倍です。簡単に言えば、現在の株価が会社の予想利益のおよそ17.6年分まで評価されているということです。
もちろん、PER17倍だから高い、10倍だから安いというように単純に決めることはできません。
利益がほとんど成長しない会社ならPER17倍は高く感じるかもしれません。一方、利益を長期間伸ばし続けられる会社であれば、将来の成長を期待して高いPERが付くこともあります。
東京海上HDの場合、2026年度のIFRS修正純利益は9,500億円を見込んでいます。2024年度8,120億円、2025年度8,815億円から利益を伸ばす計画であり、さらにAspiration 2035では、その先も長期的な利益成長を目指しています。
だから現在のPER17.57倍には、「今の利益」だけではなく、「これからも利益を成長させる」という期待がある程度織り込まれていると考えた方がよさそうです。
PBRも1.77倍あります。
PBR1倍を超えているということは、東京海上HDが持つ純資産そのものだけではなく、保険引受の知見、海外の専門人材、ブランド、顧客基盤、M&Aで築いてきた事業など、帳簿にはそのまま表れない価値にも市場が価格を付けていると見ることができます。
私は現在の水準を、明らかな割安株というより、強い企業として一定の評価をすでに受けている株価だと考えています。
だからこそ、これから重要になるのはPERそのものが高いか低いかではありません。修正純利益9,500億円を達成し、その先も利益を伸ばすことで、現在の株価評価を正当化できるかです。
配当と自社株買いは大きな魅力
東京海上HDは、配当を株主還元の基本とし、利益成長に応じて持続的に高める方針を掲げています。
実際に1株あたり年間配当は、2022年度100円、2023年度123円、2024年度172円、2025年度218円へ増えてきました。2026年度についても、2026年10月に実施する株式分割を考慮すると、分割前換算で年間245.05円相当を予定しています。
8月27日の株価7,629円を基準にすると、予想配当利回りは3.21%です。
配当だけではありません。
東京海上HDは資本水準を見ながら、自社株買いも積極的に行っています。資本水準調整としての自己株式取得等は2022年度1,000億円、2023年度1,200億円、2024年度2,200億円、2025年度2,400億円と拡大し、2026年度は年間4,000億円の自己株式取得を予定しています。
自社株買いは、会社が市場から自分たちの株式を買い戻すことです。発行済株式数が減れば、一株あたり利益や一株あたり企業価値が高まりやすくなります。
政策保有株式を減らして資本を解放し、その資本を成長投資だけではなく配当や自社株買いへ振り向けていることは、現在の東京海上HDの資本政策を象徴する動きだと思います。
ただし、株主還元が大きいからどんな株価でも買って良いというわけではありません。
配当も自社株買いも、その原資は最終的には会社が生み出す利益です。
だから長期投資家として本当に見たいのは、高い配当を出せることではなく、利益を増やしながら配当も増やし続けられることです。
15分割で東京海上HDは買いやすくなる
東京海上HDは2026年8月25日、2026年9月30日を基準日として、10月1日付で普通株式1株を15株へ分割すると発表しました。同時に、株主優待制度の新設も発表しています。
株式分割とは、一つの株を細かく分けることです。
8月27日の終値7,629円を単純に15で割ると、分割後の理論株価は約509円です。100株単位で考えれば、現在は約76万円必要なのに対して、分割後は単純計算で約5.1万円まで最低投資金額が下がります。
保有している株数は15倍になりますが、一株の価格は15分の1になるため、株式分割をしただけで会社の価値や株主が持つ資産価値が増えるわけではありません。
しかし、個人投資家にとってはかなり大きな変化です。
これまで東京海上HDに興味があっても、「100株買うのに70万円以上必要」という理由で手を出しにくかった人もいたはずです。分割後は数万円から100株を保有できるようになるため、これまでよりかなり買いやすくなります。
さらに、株主優待制度も新設されます。
ただし、分割後に100株を買えばすぐに優待を受けられるわけではありません。 新しい株主優待は、原則として100株以上を3年以上継続保有する株主が対象です。
そのため株主優待は、短期的に株を買って特典を受け取る仕組みというより、東京海上HDの株式を長期間持ってくれる個人株主を増やす狙いがあると考えた方がよさそうです。
ここで最も注意したいのは、株式分割や株主優待によって会社そのものの利益が増えるわけではないことです。
株価が500円前後になると、7,000円台だったときより「安くなった」と感じるかもしれません。しかし、一株あたりの利益や純資産も同じ比率で調整されるため、PERやPBRなどの企業価値を測る指標は基本的には変わりません。
だから分割後に見るべきなのも同じです。
東京海上HDが修正純利益を伸ばし続けられるのか。ROE13%前後を維持できるのか。海外事業が成長を続けるのか。そして、利益成長とともに配当を増やせるのか。
買いやすくなることと、割安になることは違います。
この区別は、株式分割後の東京海上HDを見るうえで覚えておきたいところです。
今の東京海上HDを私はどう見る?
2026年8月27日時点ではPER17.57倍、PBR1.77倍です。配当利回りは3.21%ありますが、数字だけを見れば明らかな割安圏とは言いにくいと思います。
ただし、その裏側には修正純利益9,500億円を目指す利益成長、利益の約3分の2を生み出す海外事業、政策保有株式削減による資本効率改善、増配、自社株買いがあります。
だから私が今後見たいのは、株価が7,000円だから安い、8,000円だから高いという単純な判断ではありません。
現在のPERに対して、利益がどれだけ伸びていくのか。利益が増えることでPERが自然に下がっていくのか。その利益から配当を増やし続けられるのか。そして、株式分割後に個人投資家が増えても、企業価値そのものが伴っているのか。
このあたりを見ながら判断したいと思います。
東京海上HDは、今回調べてきた中でもかなり強い事業基盤を持つ会社だと感じています。一方で、良い会社であることは、どんな株価でも良い投資先であることを意味しません。
長期投資では会社を見ることと同じくらい、「その会社をいくらで買うのか」が重要です。
だから東京海上HDについても、企業としての成長を追いながら、株価が利益成長に対してどのくらいの期待を織り込んでいるのかを見続けたいと思います。

東京海上HDは魅力的な会社ですが、良い会社だから何円でも買えるわけではありませんね。分割後は買いやすくなりますが、割安になるわけではありません。
利益成長と株価のバランスを見ながら、自分が納得できる価格を考えたいです。
企業研究をしても、「では実際にどの数字を見て投資判断すればいいのか」はまた別の難しさがあります。会社四季報を使った企業の見方をもう少し深く学びたい方には、エミン・ユルマズさんの『エミン流「会社四季報」最強の読み方』も参考になります。
東京海上HDは長期投資先として魅力的か
1879年に海上保険から始まり、国内損害保険、生命保険、海外保険、スペシャルティ保険へ事業を広げ、現在では利益の約3分の2を海外から生み出すグローバル保険グループになりました。さらに保険金を支払うだけではなく、防災・減災、サイバー、データ、AIなどを使って、事故が起きる前から顧客を支えるソリューション事業へも領域を広げようとしています。
一方で、自然災害やソーシャルインフレーション、海外M&A、金融市場、サイバー、ガバナンスなど、東京海上HDには多くのリスクがあります。
ただ、保険会社にリスクがあること自体は問題ではありません。
重要なのは、どのリスクを取るのかを見極め、適切な価格で引き受け、世界へ分散し、十分な資本を持ちながら利益へ変えられるかです。
今回の企業研究を通じて、私は東京海上HDの強さは「保険をたくさん売れること」ではなく、長い時間をかけて培ってきたリスクを見る力、世界中に広がる専門人材、そしてそのリスクを支えられる財務基盤が一つにつながっているところにあると感じました。
だから長期投資先として見るうえでは、短期的な株価よりも、この仕組みが10年後も利益を生み続けられるのかを考えることが大切だと思います。
長期投資先として魅力を感じる理由
自動車事故、火災、自然災害、企業活動、サイバー攻撃、訴訟など、社会が変わっても何らかのリスクは残ります。むしろデジタル化や気候変動、新しい技術の普及によって、これまで存在しなかったリスクも生まれています。
もちろん、リスクが増えれば保険会社が自動的に儲かるわけではありません。それでも「大きな損失を一社や一人だけでは抱えられない」という問題がある限り、リスクを引き受ける仕組みそのものへの需要は残ると考えられます。
さらに東京海上HDの場合、日本だけに依存していません。
国内には大きな顧客・代理店基盤があり、海外では北米を中心としたスペシャルティ保険などから大きな利益を生み出しています。地域や保険商品を分散することで、一つの国や一つの災害だけに利益が左右されにくい構造をつくってきました。
そして、利益が増えたときにその資本を次の成長へ使えることも重要です。
海外M&Aへ投資する。
専門人材や新しい保険領域を手に入れる。
利益源とリスクがさらに分散する。
余った資本を次の成長投資や株主還元へ振り向ける。
東京海上HDには、こうした「利益を生み、その利益を次の利益へつなげる循環」があります。
配当についても、東京海上HDは利益成長に応じて持続的に高める方針を明確にしています。2026年度には年間4,000億円の自己株式取得も予定しており、余剰資本をただ持ち続けるのではなく、成長投資の機会がなければ株主へ返す考え方も示しています。
私は長期投資では、今の利益の大きさ以上に、稼いだ利益を次の成長へ再投資できる会社なのかを重視したいと思っています。
その意味では、東京海上HDには長期保有と相性の良い事業構造があるように感じます。
2035年まで利益を本当に2倍にできるのか
東京海上HDは2025年度のIFRS修正純利益8,815億円に対して、2035年には1兆7,000億円以上まで利益を拡大することを目指しています。年間平均成長率では7%以上です。
さらに修正ROEについても、2025年度の12.9%から、2035年には17%以上というグローバル生損保トップクラスの水準を目標にしています。単純に会社を大きくするだけではなく、必要資本の増加以上に利益を伸ばし、資本効率まで高めようとしていることが分かります。
これはかなり高い目標です。
もし8,815億円だった利益を1兆7,000億円以上まで増やすことができれば、東京海上HDは現在よりさらに大きな利益を配当、成長投資、自社株買いへ回せる会社になります。
一方で、10年間ずっと順調に利益が伸び続けるとは限りません。
巨大自然災害が起きる年もある。
海外保険市場の収益性が低下するかもしれない。
大型M&Aが期待通りに成長しない可能性もある。
金融市場や為替も変わります。
だからAspiration 2035を見るときは、「1兆7,000億円を達成するかどうか」だけを見るのではなく、そこへ向かう途中でも利益の質が改善しているのかを確認する必要があります。
私が特に見たいのは、保険引受だけではなく、資産運用やソリューション事業まで利益の柱が広がっていくかです。
東京海上HDは2035年に向けて、保険引受、資産運用、ソリューションへテクノロジーを組み合わせ、「保険にとどまらないソリューションパートナー」になることを目指しています。
保険で築いた顧客基盤やデータを使って、事故を防ぐところまで収益化できるのであれば、従来とは違う成長エンジンになります。
逆にソリューション事業が十分な利益を生み出せず、既存の保険事業だけに成長を頼る状態が続くのであれば、2035年の目標達成は難しくなるかもしれません。
長期保有するなら、何が崩れたら考え直す?
私が東京海上HDを保有するとしたら、株価が一時的に下がったことだけを理由に売るのではなく、自分が投資した理由そのものが崩れていないかを確認したいと思います。
東京海上HDについて、特に見続けたいのは次の5つです。
- 修正純利益が長期的に成長しているか
- 海外事業の高い収益性を維持できているか
- 修正ROEを高められているか
- M&Aや資本配分で大きな失敗をしていないか
- 保険会社として最も重要な信頼を失っていないか
例えば巨大な自然災害によって一年だけ利益が減ったとしても、私はそれだけで長期的な競争力が失われたとは考えません。損害保険会社である以上、自然災害によって利益が上下することはある程度想定しておく必要があります。
一方で、保険料の設定を長期間誤り、コンバインドレシオが悪化し続ける。海外M&Aで高値づかみを繰り返す。資本効率が下がり続ける。不適切な業務によって顧客や社会からの信頼を失う。
こうした変化が続くのであれば、話は違います。
東京海上HDの根本的な強みとして見てきた「リスクを見る力」や「資本を適切に使う力」が崩れている可能性があるからです。
つまり私が長期保有で確認したいのは、毎日の株価ではありません。
東京海上HDが、リスクを理解し、利益へ変え、その利益を次の成長へ使うという循環を維持できているか。
ここが続いている限り、多少の株価下落や単年度の減益だけで企業そのものへの評価を大きく変える必要はないと思います。
会社としては魅力的、でも買う価格は別に考えたい
社会から必要とされ続ける保険という事業を持ち、日本だけではなく世界へ利益源を広げています。スペシャルティ保険の専門性、M&Aによって加わった人材、グローバルなリスク分散、強い財務基盤があり、さらに政策保有株式を減らしながら資本効率を高めようとしています。
2035年には修正純利益1兆7,000億円以上、修正ROE17%以上を目指しています。
もしこの成長が実現していくのであれば、10年という時間を使って企業価値を高めていける可能性があります。
ただし、会社として魅力があることと、今すぐ株を買いたいことは別です。
2026年8月27日時点ではPER17.57倍、PBR1.77倍まで評価されています。前に見たように、現在の株価には東京海上HDが今後も利益を伸ばし続けるという期待がすでにある程度含まれていると考えています。
だから私は、東京海上HDを「安いから買いたい会社」ではなく、「長く持ちたいから、納得できる価格で買いたい会社」として見ています。
株式分割によって100株を数万円から買えるようになれば、これまでより投資しやすくなります。しかし、買いやすくなることと割安になることは違います。
企業価値を見る。
利益成長を見る。
株価を見る。
そして、自分が期待するリターンに対して十分な余裕がある価格なのかを考える。
東京海上HDのような強い会社ほど、「良い会社だから買う」で終わらず、良い会社を良い価格で買えるかまで考えたいと思います。
現時点での私の評価を整理すると、次のようになります。
| 見るポイント | 私の評価 |
|---|---|
| 事業の強さ | 高い |
| 長期的な成長余地 | 高い |
| 財務・資本力 | 高い |
| 株主還元 | 高い |
| リスク分散 | 高い |
| 現在の割安感 | それほど大きくない |
会社としての魅力はかなり高い。
一方、株価については焦らずに見たい。
私は今のところ、そんな評価です。

東京海上HDは、長期で成長を見続けたいと思える会社ですね。
ただ、良い会社だから急いで買う必要はありません。
企業価値と株価の両方を見ながら、納得できる価格で長く付き合いたいです。
東京海上HDの強みまとめ|世界の「いざ」を守るグローバル保険企業
もちろん、国内損害保険は今も東京海上グループの大きな基盤です。しかし実際には、国内の自動車保険や火災保険だけではなく、生命保険、海外保険、スペシャルティ保険、資産運用、さらに防災・減災やサイバーなどのソリューションまで事業を広げています。現在では利益の約3分の2を海外から生み出しており、東京海上HDはすでに「日本の損保会社」という枠だけでは捉えにくい会社になっています。
私は企業研究を終えて、東京海上HDの強みは単に「保険料収入が大きいこと」や「海外に多くの会社を持っていること」ではないと考えるようになりました。
どのリスクなら引き受けられるのかを見極め、適切な価格を付け、世界へ分散し、その利益を次の成長へ再投資できること。
140年以上積み上げてきた保険引受の知見、国内の顧客基盤、海外M&Aで加わった専門人材、スペシャルティ保険、財務基盤、資産運用、そしてグローバルなリスク分散が、それぞれ別々に存在しているのではなく、一つの仕組みとしてつながっているところに東京海上HDの競争力があるように感じます。
一方で、自然災害の激甚化、ソーシャルインフレーション、金融市場、海外M&A、サイバー、ガバナンスなど、東京海上HDが抱えるリスクも小さくありません。そもそも保険会社はリスクを避ける会社ではなく、リスクを引き受ける会社です。
だからこれから東京海上HDを見るうえで重要なのは、リスクがなくなるかどうかではありません。
変化するリスクを、これからも正しく理解し続けられるか。
私は、ここが今後10年の東京海上HDを左右する最大のポイントだと思います。
結局、東京海上HDの強みは何だったのか
国内では長い時間をかけて築いてきた顧客や代理店との関係があり、その事業から安定した利益を生み出しています。一方、海外ではPHLYやHCCなど専門性の高い保険会社をM&Aで取り込み、スペシャルティ保険を大きな利益源へ育ててきました。さらに、買収した会社を東京海上のやり方へ一律に変えるのではなく、それぞれの経営者や専門性を残しながらグループ全体へつなげるFederated Modelも、東京海上HDらしい経営の特徴です。
そして、地域や商品が広がることで利益源が増えるだけではなく、グループ全体のリスクも分散されます。そこへ強い財務基盤や資産運用力が加わり、さらに新しいM&Aや成長投資、株主還元へ資本を振り向けることができます。
整理すると、私は東京海上HDの強みを次の7つだと考えています。
- 140年以上蓄積してきた保険引受とリスク管理の知見
- 国内に築いた大きな顧客・代理店基盤
- 世界へ分散された事業ポートフォリオ
- スペシャルティ保険を支える専門性
- M&Aした会社の強みを活かす経営力
- 強固な財務基盤と資本配分力
- 保険の前後まで広げるソリューション事業
ただし、この7つを別々に見るだけでは東京海上HDの本当の強さは分かりにくいと思います。
保険で利益を生むから資本が増える。資本があるから海外へ投資できる。海外へ広がるから新しい専門性と利益源を得られる。異なる地域や商品を持つことでリスクが分散され、余った資本を次の成長へ使える。そして利益が増えれば、配当や自社株買いという形で株主にも還元できます。
複数の強みがつながり、次の強みを生み出していること。
私は、そこに東京海上HDの簡単には真似できない競争力があると思います。
今後10年で確認したいのは「利益の大きさ」より「利益の質」
現在の利益水準から考えれば、かなり高い目標です。
ただ、私は東京海上HDを見るときに「1兆7,000億円を達成できるか」だけを追いかける必要はないと思っています。政策保有株式の売却益によって利益が大きく見える時期もあれば、巨大自然災害によって一時的に利益が落ち込む年もあります。保険会社である以上、単年度の利益にはどうしても振れが出ます。
だから今後の決算で確認したいのは、数字の大きさよりも、その利益がどう生まれているのかです。
特に私は、
- 海外保険の高い収益性を維持できているか
- 国内損保の収益性が改善しているか
- 修正ROEを高められているか
- ソリューション事業が新しい利益源へ育っているか
- 資本をM&A・成長投資・株主還元へ適切に配分できているか
を見ていきたいと思います。
AIやデータの活用も重要です。
東京海上HDがAIを使うこと自体には、それほど大きな意味はありません。競合他社も同じようにAIを利用できるからです。
重要なのは、140年以上の保険引受で蓄積してきた知見、世界中の事故や災害に関するデータ、スペシャルティ保険の専門家、顧客との長い接点とAIをどこまで組み合わせられるかです。
もし東京海上HDがこれまでの「事故が起きた後に保険金を払う会社」から、事故を予測し、防ぎ、被害を小さくし、それでも残るリスクを保険で引き受ける会社へ進化できれば、保険会社として提供できる価値はさらに広がります。
だから今後10年で私が見たいのは、単純な規模拡大ではありません。
「リスクを見る力」が、より大きな利益と新しい価値へ変わっているか。
そこを見続けたいと思います。
企業研究を終えて|私が考える東京海上HDという会社
企業研究を終えた今は、少し違います。
東京海上HDは、世界中のリスクを引き受け、人や企業が次の一歩を踏み出せるようにする会社です。
1879年には、日本の企業が海を越えて貿易へ挑戦できるよう、船や積荷のリスクを引き受けました。そこから自動車、住宅、企業活動、生命、自然災害、海外、サイバーへと守る対象を広げ、現在では保険金を支払うだけではなく、防災・減災や事故予防まで事業にしようとしています。
事業の形は大きく変わっています。
それでも、創業から続く役割はそれほど変わっていないように感じます。
自分だけでは抱えきれないリスクを引き受けることで、人や企業が前へ進めるようにする。
私は今回の企業研究を通じて、「お客様や社会の“いざ”をお守りする」というパーパスが、東京海上HDの事業そのものとかなり深くつながっている会社だと感じました。
投資先として見ても魅力はあります。
利益の約3分の2を海外から生み出し、スペシャルティ保険という専門性の高い事業を持ち、政策保有株式を減らしながら資本効率を高めています。配当は増加しており、自社株買いも積極的です。2035年には利益を現在の2倍以上へ伸ばそうとしています。
一方で、どんな株価でも買いたい会社かと言われれば、私はそうは考えていません。
2026年8月27日時点ではPER17.57倍、PBR1.77倍まで評価されています。企業としての魅力は高い一方で、その強さや今後の利益成長に対する期待も、株価にはすでにある程度織り込まれているように見えます。
だから今の私の評価は、
会社としてはかなり魅力的。
長期的な成長にも期待したい。
でも、買う価格については焦らず考えたい。
そんなところです。
東京海上HDがこれからもリスクを正しく見極め、そのリスクを世界へ分散し、利益へ変え、さらにその利益を次の成長へ使えるのか。
そして2035年、本当に「世界の“いざ”だけでなく“いつも”まで支える会社」へ進化しているのか。
「リスクがないから強い」のではなく、「リスクを理解し、引き受け、次の一歩を支えられるから強い」。
私は、そんな会社として東京海上HDをこれからも見ていきたいと思います。

調べる前は「大きな損害保険会社」という印象でしたが、本当の強みは世界中のリスクを理解し、それを引き受けられる仕組みにありそうです。
これからも利益だけではなく、その「リスクを見る力」が進化しているかを見続けたいですね。
参考資料・出典(一次情報)
本記事では、主に以下の東京海上グループ公式資料・IR資料を参照しています。
東京海上ホールディングス|パーパス・グループの歴史
東京海上ホールディングス|統合レポート・事業戦略
統合レポート(アニュアルレポート)|東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス|決算・IR資料
2025年度 IR説明会・決算IR資料|東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス|Aspiration 2035
東京海上ホールディングス|IFRS移行・経営指標
IFRS・ICS導入に関する説明会|東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス|海外事業・M&A・グローバルなリスク分散
2026年度 東京海上グループの経営戦略|東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス|事業等のリスク・ERM
東京海上ホールディングス|防災・減災・ソリューション事業
東京海上ホールディングス|AI・データ活用
生成AIを活用した業務基盤進化に向けたOpenAIとの戦略的連携について|東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス|配当・自社株買い・株主還元
東京海上ホールディングス|株式分割・株主優待制度
2026年8月25日公表の株式分割・株主優待制度に関する公式発表を参照しています。
最終確認日:2026年8月29日
東京海上HD投資家ノート|決算・株価を継続チェック

この記事の分析内容をもとに、東京海上HDの業績や株価を長期的に追いかけていきます。
企業研究は一度記事を書いて終わりではなく、決算、実態的な収益力、配当金、成長分野への投資、株価、信用需給などの変化を確認しながら、この投資家ノートを継続的に更新していく予定です。
※この記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。企業の新しい取り組みがあれば、随時内容を更新していきます。
投資研究メモ 2026年8月29日(2025年度決算・2026年度第1四半期・2026年度会社予想・Aspiration 2035・株式15分割発表反映)
【現在の評価】
★★★★☆
【長期保有】
★★★★★
【企業理念】
★★★★★
【成長性】
★★★★★
【株価妙味】
★★☆☆☆
【配当】
★★★★☆
【働きたい会社】
★★★★☆
【注目ポイント】
・2026年度の修正純利益は9,500億円、修正ROEは**13.0%**を会社予想。政策保有株式の売却益に頼らず、本業で利益を伸ばせるかに注目
・利益の約3分の2を海外から生み出しており、すでに「日本の損保会社」というよりグローバル保険企業
・PHLYやHCCなど専門性の高い会社をM&Aし、スペシャルティ保険を大きな利益源へ育ててきた。買収先の強みを残すFederated Modelも特徴
・東京海上HD最大の強みは、リスクを見極め、適切な価格で引き受け、世界へ分散できること
・2035年は修正純利益1兆7,000億円以上、修正ROE17%以上が目標。利益成長だけでなく資本効率も高められるかを見たい
・2026年度は株式分割前換算で年間配当245.05円相当、さらに4,000億円の自己株式取得を予定。株主還元はかなり強い
・2026年10月1日に1株→15株へ株式分割。買いやすくなる一方、分割そのものは割安材料ではない
・2026年8月28日終値7,693円で、予想PER17.72倍、PBR1.78倍。会社としては魅力的だが、割安感はそれほど大きくない
【気になること】
・巨大自然災害の増加を、保険料改定や再保険、世界分散で吸収できるか
・海外利益が大きい分、米国の訴訟増加やソーシャルインフレーションの影響が大きくならないか
・これまで成功してきた海外M&Aで、今後も高値づかみせず資本を有効に使えるか
・防災・減災、サイバー、AIなどのソリューション事業が、本当に新しい利益源へ育つか
・保険会社にとって最も重要な顧客からの信頼を維持できるか
個人的には、「企業理念★★★★★」「長期保有★★★★★」はかなり納得感があります。
東京海上HDの魅力は、単に規模が大きいことではありません。
リスクを見極め、世界へ分散し、生まれた利益を次の成長へ再投資できること。
ここは簡単には真似できない強みだと思います。
一方で、株価妙味は★★☆☆☆。
PER17倍台まで評価されており、企業の強さや今後の成長期待もある程度は株価に織り込まれています。
だから私は東京海上HDを、
「安いから買いたい会社」ではなく、
「長く持ちたいから、納得できる価格で買いたい会社」
として追っていきたいです。
今後は特に、海外事業の収益性・修正ROE・M&Aを含む資本配分・ソリューション事業の成長の4つを確認していきます。

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\ なぜ私は「企業を応援する投資」を続けているのか /






























































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