
三越伊勢丹の強みと聞くと、日本橋三越本店の歴史や格式、伊勢丹新宿本店のファッション、丁寧な接客や外商といった「老舗百貨店らしい強み」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。でも、詳しく調べていくと、350年以上続いてきた理由は、歴史やブランドの長さだけではなさそうです。
三越の原点である越後屋は、江戸時代にお客さまが買いやすいよう、商売の仕組みそのものを変えました。そして現在の三越伊勢丹は、「館業から個客業へ」を掲げ、一人ひとりのお客さまと長くつながる商売へ変わろうとしています。
越後屋から個客業まで続いているのは、もしかすると「お客さまを見て、売り方を変える力」なのかもしれません。今回は、三越伊勢丹のマーケティングの原点まで遡りながら、現在の強みと将来性を一緒に考えてみます。
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- 三越伊勢丹HD 投資家ノート
- 参考資料・出典
三越伊勢丹HDは何を目指す会社?|「こころ動かす、ひとの力で。」
私も調べる前は、三越伊勢丹の強みとは、350年以上の歴史の中で築かれたブランドや接客力にあるのだろうと思っていました。
今回調べて見えてきた三越伊勢丹の強みは、350年以上のブランドそのものではなく、旗艦店、販売員・バイヤー・外商、マーチャンダイジング、そして顧客データをつなぎながら、時代に合わせて「顧客を見る方法」を変え続けてきたことです。私は、この力こそが現在の個客業や今後の将来性につながっていると考えています。
しかし、現在の三越伊勢丹グループの企業理念を読んでみると、この会社が大切にしているのは「伝統を守ること」だけではありませんでした。そこには、人の力で顧客の心を動かすこと、新しいものを生み出す感性、情報を使って考えること、そして変化の先へ挑み続けることまで明確に示されています。
三越伊勢丹グループは、企業理念をMISSION・VALUES・VISIONの3つで構成しています。
| 企業理念 | 意味 | 三越伊勢丹を見るポイント |
|---|---|---|
| MISSION | 私たちの存在意義 | なぜ「ひとの力」を大切にするのか |
| VALUES | 私たちが大切にする思考と行動 | 感性・情報・共創・挑戦をどう商売へ生かすのか |
| VISION | 私たちが目指す姿 | 百貨店を中核に、どんな会社へ変わろうとしているのか |
この3つを現在の経営と照らし合わせると、三越伊勢丹が進めている「館業から個客業へ」という変革も、突然始まった新しい戦略ではないことが見えてきます。お客さまを見て、自分たちの商売も変えていく。この考え方そのものが、三越伊勢丹という会社を理解する重要な手掛かりになりそうです。
MISSION|「こころ動かす、ひとの力で。」
こころ動かす、ひとの力で。
最初に読んだときは、百貨店らしい丁寧な接客やおもてなしを表した言葉なのだと思いました。しかし企業理念ガイドを読むと、ここでいう「ひと」は販売員だけを指しているわけではありません。三越伊勢丹グループで働く一人ひとりが、自らの力によって、お客さまをはじめ、従業員、取引先、地域社会、株主・投資家などの心を動かしていく。その意味がMISSIONには込められています。
これは百貨店という商売を考えると分かりやすいと思います。店頭で顧客と向き合う販売員だけでなく、どんな商品を扱うかを考えるバイヤー、商品や売場を組み立てるマーチャンダイザー、一人ひとりの顧客と長期的な関係を築く外商担当者など、多くの「人」の判断や提案によって売場がつくられています。
ECで同じ商品を買える時代になれば、「商品が置いてある」だけでは百貨店へ行く理由は弱くなります。だからこそ、誰が商品を選び、どんな背景を伝え、どんな提案をしてくれるのかが価値になる。三越伊勢丹が「ひとの力」を存在意義の中心に置いているのは、こうした百貨店という商売の特徴ともつながっています。
そして現在は、その人の力を経験や勘だけに任せるのではなく、顧客データやデジタルと組み合わせようとしています。三越伊勢丹の強みを考えるうえでは、「人かデジタルか」ではなく、「人の力をデジタルによってさらに生かせるか」という視点が重要になりそうです。
約14,000人の声から生まれたMISSION
三越伊勢丹グループは2022年4月から企業理念体系の再整理を始め、地域事業会社や関係会社まで含めた従業員が、自分自身の働く意味や会社の存在意義について考えるプロセスをつくりました。
| 企業理念再整理のプロセス | 内容 |
|---|---|
| プロジェクト開始 | 2022年4月 |
| アンケート参加 | 約14,000人 |
| 対話会 | 1,600回超 |
| 従業員の想いから浮かび上がった言葉 | 「ひと」「こころ」 |
約14,000人の回答を分析していく中で、所属会社や年代が違っても、従業員が大切にしているものには共通点があることが分かりました。そこから浮かび上がったのが「ひと」と「こころ」です。
老舗企業の理念というと、創業者が残した言葉を代々守っているイメージがあります。しかし三越伊勢丹の場合、350年以上にわたって受け継いできた精神をそのまま掲げるのではなく、今そこで働いている人たちが、自分たちは何を大切にしている会社なのかをもう一度考え直している。ここにも、伝統をそのまま保存するだけではない会社の姿勢が表れているように感じます。
VALUES|三越伊勢丹が大切にする「感性」と「情報」、そして変化への挑戦
三越伊勢丹グループのVALUESには、次の6つの考え方が示されています。
- 新しさに惹かれ、美しいものに感動し、それを伝えたいと思う
- 人が好きで、あふれる笑顔を響かせ、まわりを明るくする
- 魅力あふれる個性で、斬新なアイデアを生かし、共創をもって形にする
- あらゆる情報を駆使し、感性とともに考えぬき、オンリーワンをつくる
- 常に真摯な姿勢で、健全な方法を選択し、社会的責任を果たす
- 変化の先の未来をじ、勇気をもって、挑戦と努力をしつづける
この中で、今回の企業研究で特に注目したいのが「感性」「情報」「変化」です。
百貨店は、もともと人の感性が大きく影響する商売です。次に何が売れるのか、どんなブランドを仕入れるのか、どのように商品を並べれば顧客の心が動くのか。特に伊勢丹は、ファッションやマーチャンダイジングを通じて、その商品提案力を磨いてきました。
一方で、現在の三越伊勢丹は感性だけに頼ろうとしているわけではありません。
VALUESにも、
「あらゆる情報を駆使し、感性とともに考えぬき」
という考え方が入っています。
現在進めている個客業では、エムアイカードやアプリなどを通じて顧客とつながり、誰が、どのような商品を購入し、どのように利用しているのかを把握する仕組みを強化しています。そこから得られた情報と、販売員やバイヤー、外商が持つ感性や経験を組み合わせて、一人ひとりへより深い提案をしていく考え方です。
これは三越伊勢丹のマーケティングを考えるうえでも重要です。データだけならEC企業も大量に持っています。人の感性だけなら、百貨店が昔から持ってきた力です。「人の感性×顧客データ」を組み合わせて、他社にはできない提案へ変えられるか。そこに現在の三越伊勢丹らしい競争力が生まれる可能性があります。
さらにVALUESには、変化の先へ挑戦し続ける姿勢も明確に入っています。350年以上の歴史を持つ会社が、企業理念の中に「変わらないこと」ではなく「変わり続けること」を入れているのは印象的です。
VISION|“特別な”百貨店を中核に、世界へ広がる
客さまの暮らしを豊かにする、 “特別な”百貨店を中核とした小売グループ
~日本の誇り、世界への発言力を持ち、高感度上質消費において最も支持される~
VISIONでまず注目したいのは、三越伊勢丹が百貨店を捨てようとしているわけではないことです。
現在の経営では「館業から個客業へ」という大きな変革を掲げています。そのため、一見すると百貨店という店舗中心のビジネスから離れようとしているようにも見えます。しかしVISIONでは、これからも百貨店をグループの中核に置くことが明確になっています。
伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越などには、建物だけではなく、ブランドへの信頼、販売員やバイヤーの提案力、外商、取引先との関係、そして長年利用してきた顧客基盤があります。
三越伊勢丹が考えているのは、それらを捨てて新しい事業へ移ることではありません。
まず百貨店そのものを“特別な”存在へ磨き、その強い顧客接点を起点として、顧客との関係をさらに広げていく。
この方向性です。
もう一つ重要なのが、日本国内だけを見ているVISIONではないことです。
中期経営計画でも事業機会を「世界・時間・空間・用途」へ広げる考え方が示され、国内だけでなく海外の顧客とのつながりも拡大しようとしています。
百貨店という店舗では、営業時間や場所に制約があります。しかし一度顧客とデジタルでつながることができれば、店舗を離れた後も関係を持てます。さらに百貨店の商品だけでなく、金融、不動産、旅行などグループ内のさまざまなサービスまで提案できる可能性があります。
つまり三越伊勢丹が目指しているのは、百貨店から離れることではなく、百貨店の強さを入口として、顧客との関係を世界へ、時間を越えて、暮らし全体へ広げていくことだと考えると分かりやすいと思います。
企業理念は経営に表れている?|MISSION・VALUES・VISIONから個客業へ
企業研究で重要なのは、言葉がきれいかどうかではなく、実際の経営がその方向へ動いているのかを見ることだと思います。
三越伊勢丹の場合、企業理念と現在の経営戦略を並べると、少なくとも目指している方向にはかなり一貫性があります。
MISSIONでは、人の力を企業の存在意義に置く。
VALUESでは、感性だけでなく情報も使い、共創し、変化へ挑み続ける。
VISIONでは、百貨店を中核にしながら顧客の暮らしを豊かにする小売グループを目指す。
そして現在、これを実現するために進めているのが、「館業から個客業へ」というビジネスモデルの転換です。2025〜2030年度の中期経営計画でも、この変革は全社戦略の中心に置かれています。
従来の「館業」は、百貨店という場所へ多くの人を集め、その場で商品を買ってもらうマス向けの商売でした。百貨店市場そのものが縮小する中、会社は「館」の魅力を磨くだけでは持続的な成長に限界があると判断しています。
そこで現在進めている個客業では、
集客 → 識別化 → 利用拡大 → 生涯顧客化
というプロセスを磨こうとしています。店舗などで出会った顧客とカードやアプリを通じてつながり、その人を理解し、百貨店以外も含めたさまざまな価値を提案して、関係を長く深くしていく考え方です。
企業理念との関係を整理すると、
MISSION「ひとの力」
↓
顧客との信頼をつくる
VALUES
↓
人の感性と情報を組み合わせ、変化へ挑戦する
VISION
↓
“特別な”百貨店を中核に顧客の暮らしへ価値を広げる
個客業
↓
一度きりの来店客ではなく、一人ひとりの顧客と長くつながる
という流れが見えてきます。
ただし、理念と戦略がきれいにつながっているからといって、個客業が必ず成功するわけではありません。
データを集めても魅力的な提案へ変えられなければ意味はありませんし、「ひとの力」を重視する以上、人材育成や接客品質を維持する難しさもあります。三越伊勢丹の将来性を考えるなら、理念に共感できるかだけでなく、この思想を顧客数・購買額・利益へ実際に変えられているかを見る必要があります。
それでも、企業理念を調べる前と後では、私の三越伊勢丹に対する印象は少し変わりました。
350年以上続く会社だから「伝統を守ること」を何より大切にしているのだろうと思っていました。
しかし、理念から見えてきたのは少し違います。
お客さまを大切にしながら、時代や顧客が変われば、自分たちも変わる。
現在の「館業から個客業へ」も、その考え方を現代の商売へ置き換えたものなのかもしれません。
そして「顧客を見て、商売の仕組みそのものを変える」という考え方をさらに遡っていくと、三越の原点である1673年の越後屋へ行き着きます。





350年以上続く会社と聞くと、昔から変わらないことが強みなのだと思ってしまいます。でも三越伊勢丹は、お客さまを大切にしながら、自分たちも変わり続けようとしているのですね。その考え方の原点をたどると、越後屋の商売がますます気になります。
三越伊勢丹の原点・越後屋|350年前から「売り方」を変えてきた
単に「三越は350年以上続く老舗です」と歴史の長さを確認するためではありません。現在の三越伊勢丹が掲げる「館業から個客業へ」という変革を見ていると、顧客の変化を捉え、それまで当たり前だった売り方そのものを変えるという考え方が、すでに越後屋の時代から見えてくるからです。
当時の呉服は、今のように誰でも店へ入って値札を見て買える商品ではありませんでした。裕福な商家や大名、武士を中心に、店側が顧客のもとへ出向き、後払いで販売するのが一般的でした。そこへ三井高利が持ち込んだのが、店頭で売る、現金で決済する、誰にでも同じ価格で売る、必要な分だけ切って売るという新しい商売です。現在では当たり前に見える仕組みですが、当時は顧客層そのものを広げるほど大きな変化でした。三越伊勢丹HD自身も、この歴史を「お客さま第一」と「変革への挑戦」の原点として位置づけています。
私が面白いと感じたのは、350年前の越後屋と現在の個客業では、使っている技術も商売の規模もまったく違うのに、根っこにある問いが似ていることです。
「今の売り方は、本当にお客さまにとって便利なのか。」
越後屋はこの問いから当時の商習慣を変えました。現在の三越伊勢丹も、百貨店という「館」に人を集めるだけの商売でいいのかを問い直しています。350年の歴史をたどると、三越伊勢丹のマーケティングの原点が少しずつ見えてきます。
1673年、52歳の三井高利が江戸に越後屋を開く
創業者の三井高利は、このときすでに52歳でした。若くして一気に成功した起業家というより、江戸での商売経験を積んだ後、長く松阪で家業や金融業を営みながら資金を蓄え、機会を待って江戸へ再進出した人物です。三井広報委員会の歴史資料によると、高利は松阪へ戻ってから24年を経て、長兄の死をきっかけに宿願だった江戸進出を実行しました。
江戸随一の呉服街だった本町一丁目には、すでに有力な老舗呉服店が並んでいました。そこに高利は、間口9尺ほどの店を借り、「越後屋三井八郎衛門」の暖簾を掲げます。京都には仕入れ拠点を置き、息子たちが江戸と京都の店舗を管理し、高利自身は松阪から全体を動かしました。つまり越後屋は、最初から圧倒的な店舗規模や老舗ブランドを持って市場へ参入したわけではありません。むしろ後発の小さな店が、既存の大店と違う方法で顧客を取り込む必要があったのです。
ここは現在の三越から受ける印象とかなり違います。今では「老舗の代表」のように見える三越も、出発点では既存の商習慣へ挑む新規参入者でした。長い歴史を持っていることと、保守的な会社であることは必ずしも同じではありません。
当時の呉服商はどんな商売だったのか
当時の大店では、得意先を回って注文を聞き、後から商品を持参する「見世物商い」や、商品を直接顧客宅へ持ち込む「座敷売り」が一般的でした。主な顧客は裕福な商家、大名、武士。支払いもその場ではなく、盆と暮れなどにまとめて精算する掛け売りが慣習になっていました。
掛け売りには貸倒れの危険がありますし、代金を回収するまで資金も寝てしまいます。そのリスクや金利分が価格へ上乗せされるため商品価格は高くなり、顧客によって販売価格が違うこともありました。現在なら、同じ商品なのに「あなたはいくら、別の人はいくら」と価格が違うような状態です。
結果として、高価な呉服を買えるのは一部の富裕層が中心でした。
| 越後屋以前の呉服商 | 商売の特徴 |
|---|---|
| 主な顧客 | 裕福な商家・大名・武士 |
| 販売方法 | 顧客宅を訪問して販売 |
| 決済 | 掛け売り・後払い |
| 価格 | 顧客によって異なる場合がある |
| 販売単位 | 原則として反物単位 |
ここで三井高利が見つけたのは、「もっと高級な呉服を作れば売れる」という需要ではありません。今の仕組みでは買いにくい人が大量にいるという、商売の構造そのものにある不便でした。
三越伊勢丹HD公式の「根本精神とあゆみ」では、当時の商習慣と越後屋の新商法を比較する図まで掲載されています。今回の記事で「三越伊勢丹のマーケティング」を考えるなら、この違いはかなり重要です。
「店前現銀掛値なし」は何を変えたのか
三越公式の沿革でも、1673年の「店頭現銀売り」と、1683年のスローガン掲示を分けて記録しています。
言葉だけを見ると難しく感じますが、やったことは非常に分かりやすいものです。
店前=店で売る
現銀=その場で現金決済
掛値なし=人によって価格を変えず、決めた価格で売る
つまり、顧客の家へ出向き、後払いで、価格交渉しながら売る商売から、顧客自身が店へ来て、その場で同じ価格で買える商売へ変えたのです。
| 従来の呉服商 | 越後屋 |
|---|---|
| 顧客宅を訪問 | 店頭販売 |
| 掛け売り | 現金決済 |
| 顧客ごとに価格が異なる | 正札販売 |
| 富裕層中心 | 町人へ顧客層を拡大 |
現金決済なら、貸倒れリスクを価格へ上乗せする必要が小さくなり、代金もすぐに回収できます。資金の回転が速くなれば、その分を次の仕入れへ回せる。結果として価格を下げやすくなり、それまで呉服を買いにくかった町人にも市場を広げられます。三井広報委員会も、現金売りによって資金回転が速まり、越後屋の競争力につながったことを説明しています。
価格を下げることだけが革新だったのではありません。
「どう売るか」を変えることで、「誰が買えるか」まで変えた。
私はここに、現在のマーケティングへ通じる考え方があると思います。
必要な分だけ買える「切り売り」はなぜ画期的だったのか
当時の呉服は、一反単位で購入するのが一般的でした。必要なのが一部分だけでも、一反買う必要がある。これも一般の町人にとっては買いにくさにつながります。
そこで越後屋が掲げたのが、
小裂如何程(こぎれいかほど)にても売ります
という考え方でした。
欲しい人に、欲しい量だけ販売する。現在なら当たり前に見えますが、三井広報委員会によると、当時の呉服業者間では切り売りそのものが禁じられていました。それを越後屋が実行し、町人の需要を掘り起こしていきます。
ここでも発想は同じです。
「店側は一反で売りたい」ではなく、「顧客はいったい何を求めているのか」から商売を見る。
商品を変えなくても、販売単位を変えるだけで今まで買えなかった人が顧客になる。この発想は、現在の三越伊勢丹が進めている個客業とは形こそ違いますが、「企業側の都合ではなく顧客側から商売を組み直す」という点ではかなり近いものを感じます。
三井高利とマーケティング|350年前に「顧客起点」で商売を変えた
三越伊勢丹HDは、経営学者P.F.ドラッカーが三井高利について、「世界で初めてマーケティングを発明した」という趣旨で著書に記したと紹介しています。参考文献として『マネジメント 課題、責任、実践 上』も明示されています。
ただし、この記事では「三井高利こそ世界初のマーケターだった」と単純に断定するつもりはありません。重要なのは、その肩書きではなく、高利が何をしたのかです。
越後屋以前の市場には、高価な商品を掛け売りで購入する富裕層向けの商売がありました。高利はその市場の中で競争するだけではなく、「今の売り方では買えない町人がいる」という潜在的な顧客へ目を向けています。そして店頭販売、現金決済、正札、切り売りによって、その人たちが買える仕組みそのものをつくりました。
整理すると、
顧客の不便を見つける
→ 売り方を変える
→ 買いやすくする
→ 新しい顧客が生まれる
→ 市場そのものが広がる
という流れです。
これは広告を出したり、商品を派手に宣伝したりする話ではありません。顧客を起点に、商売の仕組みそのものを組み替える。今回の記事で「三越伊勢丹のマーケティング力」と呼んでいるものは、まさにこの部分です。
350年前にやっていたことを、そのまま現在へ当てはめることはできません。それでも、越後屋の歴史を調べると、現在の「館業から個客業へ」がまったく異質な発想には見えなくなってきます。
1904年「デパートメントストア宣言」|呉服店から百貨店へ変わった三越
1904年12月、株式会社三越呉服店の設立に際して、取引先への案内状で百貨店化を宣言しました。そして翌1905年1月2日、全国の主要新聞を通じて「デパートメントストア宣言」を広く発表します。現在の三越伊勢丹HDも、これを呉服業から百貨店業への大転換として位置づけています。細谷CEOは、この出来事を三越伊勢丹の歴史上「最も大きな転換点」と表現しています。
もちろん、突然1904年にすべてが変わったわけではありません。1900年には日本橋本店で従来の「座売り」を全廃し、商品を陳列して顧客自身が見て選べる売場へ改装しています。開場時には多数の来店客が押し寄せ、一時入場を止めるほどだったことが公式沿革にも残されています。
その後、三越は呉服だけでなく、食品やさまざまな商品へ品揃えを拡大し、エスカレーター、食堂、屋上庭園なども備えた近代百貨店へ進化していきます。さらに美術展や文化催事を開催し、単に「物を買う場所」ではなく、文化に触れ、新しい暮らしを知る場所までつくろうとしました。
1673年の越後屋は、呉服の売り方を変えた。
1904年の三越は、呉服店という業態そのものを変えた。
ここにも、成功した商売の形をそのまま守るのではなく、顧客や時代の変化に合わせて自分たちを変える姿勢が見えます。
伊勢丹はどんな会社だった?|「顧客を見る」もう一つのDNA
伊勢丹の歴史は、1886年に初代小菅丹治が神田旅籠町へ「伊勢屋丹治呉服店」を開いたところから始まります。1924年には百貨店形式へ移行し、1933年に現在へつながる新宿本店を開いています。
三越が越後屋以来の「おもてなし」や信頼の歴史を持つ一方、現在の三越伊勢丹HDは伊勢丹の強みを「マーチャンダイジングの発想力」と表現しています。
マーチャンダイジングとは、簡単に言えば「誰に、どんな商品を、どのような品揃えや売り方で提案するのか」を組み立てることです。その伊勢丹らしさがよく分かるのが、1956年に始まった「ティーンエイジャーショップ」だと思います。
「服がない少女たち」を見て生まれたティーンエイジャーショップ
当時の日本では、この年代に合った洋服のカテゴリーそのものが十分に確立されていなかったからです。
伊勢丹はその姿を見て、アメリカですでに「ティーンエイジャー」というファッションカテゴリーが存在することへ着目しました。そして単に婦人服を小さくするのではなく、13~17歳のライフスタイルや体型を研究し、1956年にティーンエイジャー向けのテスト販売を始めます。その後は洋服だけでなく、帽子やバッグ、アクセサリーなどへ品揃えを拡大し、「ファッションの伊勢丹」の基礎へつながっていきました。
このエピソードも、越後屋とよく似ています。
越後屋は「今の販売方法では町人が買いにくい」と気づいた。
伊勢丹は「既存の商品分類では、この年代の顧客に合う服がない」と気づいた。
どちらも、企業側が売りたいものから考えるのではなく、店頭にいる顧客の困りごとから商売を組み立て直しています。
サイズ・男性・食まで、「ファッション」の領域を広げた伊勢丹
1957年には服飾研究室を設け、日本人の体型データを分析。1963年には他社とも連携して婦人既製服のサイズ体系統一へつなげました。その後、大きいサイズ、小さいサイズなども展開し、「自分に合う既製服がない」という不便を減らしています。
1968年には「男の新館」を開き、2003年には伊勢丹メンズ館へ発展しました。同じ2003年には「サロン・ドゥ・ショコラ」も開催するなど、伊勢丹はファッションを洋服だけに限定せず、ライフスタイル全体へ広げてきました。三越伊勢丹HD公式の歴史資料でも、これらを「既成概念にとらわれない売場づくり」の流れとして整理しています。
だから私は、現在の三越伊勢丹のマーケティング力を考えるとき、
三越=商売の仕組みを変える力
伊勢丹=顧客を観察して、商品・カテゴリー・売場をつくる力
という二つのDNAがあるように感じます。
もちろん会社自身がここまで単純に分けているわけではありません。ただ、三越の「おもてなしの心」と伊勢丹の「マーチャンダイジングの発想力」を現在の価値創造の基盤としているという公式説明を見ると、二つの歴史の違いは現在の強みにも残っているように見えます。
なぜ三越と伊勢丹は統合したのか|違う強みを一つにする
単に「百貨店同士が大きくなるために合併した」と見ると、この統合の狙いをかなり見落としてしまいます。
当時の公式資料では、背景として人口減少による市場縮小、他業態との競争激化、顧客ニーズの多様化・高度化が挙げられていました。巨大ショッピングセンター、駅ナカ、インターネットなど、百貨店以外にも買い物の選択肢が増える中、顧客の要望を素早く把握し、品揃えやサービスを組み合わせて応える力が求められていたのです。
そのため統合では、三越の店舗へ伊勢丹の情報システムや業務フローを導入し、仕入れ・商品開発力を高めること、人材交流を進めること、両社の運営・企画ノウハウを共有することなどが打ち出されました。さらに両社を合わせた全国主要都市の店舗網と、当時約350万口座にのぼる顧客基盤を生かし、新宿・日本橋・銀座の3旗艦店を軸に顧客基盤を強化する構想も示されています。
現在の細谷CEOは、統合後に融合してきた二つの強みを、
三越の「おもてなしの心」
×
伊勢丹の「マーチャンダイジングの発想力」
と表現しています。
| 三越 | 伊勢丹 |
|---|---|
| 1673年・越後屋が原点 | 1886年・伊勢屋丹治呉服店が原点 |
| 信頼・おもてなし | 商品提案・マーチャンダイジング |
| 長い顧客関係 | 顧客ニーズを捉えた売場づくり |
| 日本橋を代表する老舗ブランド | 新宿を代表する高感度ファッション |
この二つが一つになったからといって、すぐにすべての強みが融合したわけではないでしょう。それでも2008年の統合は、百貨店市場が縮小する中で、片方だけでは持っていなかった強みを組み合わせ、顧客への提案力を高めようとした変革だったことが分かります。
そして現在、三越伊勢丹はその二つのDNAに、カード・アプリ・顧客データを加え、「個客業」へ進もうとしています。
越後屋から個客業へ|受け継がれてきたのは「形」ではなく「変わる力」
1673年、越後屋は売り方を変えました。
1904年、三越は呉服店から百貨店へ業態を変えました。
伊勢丹は、顧客を観察しながら商品・サイズ・売場の常識を変えてきました。
2008年、異なる強みを持つ三越と伊勢丹が一つになりました。
そして現在は、「館業から個客業へ」という新しい変革に挑んでいます。
私が三越伊勢丹の歴史を調べて一番印象が変わったのは、350年以上続いている会社なのに、歴史の節目ではむしろ、それまでの成功の形を壊していることでした。
越後屋が当時の呉服商と同じ売り方を守っていたら、町人層へ市場を広げることは難しかったかもしれません。三越が呉服業にこだわっていたら、現在の百貨店にはつながっていません。伊勢丹も、既存の商品分類だけを守っていたら「ファッションの伊勢丹」という評価は生まれなかったでしょう。
三越伊勢丹HD公式も、自社の歴史を「お客さま第一」と「変革への挑戦」の積み重ねと表現しています。
だからこそ、現在の個客業を評価するときも、「老舗だから成功する」と考えるのではなく、越後屋の時代と同じように、顧客の変化を見つけ、本当に商売の仕組みまで変えられるのかを見る必要があります。
350年受け継がれてきたものがあるとすれば、昔の売り方そのものではありません。
顧客が変われば、自分たちも変わる。
そこに、三越伊勢丹のマーケティング力の原点があるのかもしれません。





350年以上続いていると聞くと、同じやり方を守ってきた会社のように思ってしまいます。でも実際には、お客さまの困りごとや変化を見つけるたびに、売り方や売場、会社の形まで変えてきたのですね。越後屋から現在の個客業までをつなぐと、“伝統”の見え方が少し変わってきました。
三越伊勢丹HDは何で稼いでいる?|百貨店を中心とした4つの事業
実際、その見方は大きく間違っていません。現在の三越伊勢丹グループは、百貨店業、クレジット・金融・友の会業、不動産業、関連事業の4つを展開していますが、収益の中心にあるのは今も百貨店です。公式サイトでも、百貨店業をグループ売上高の約8割を占めるコア事業と位置づけています。
2025年度、つまり2026年3月期の連結売上高は5,456億円でした。外部顧客への売上高をセグメント別に見ると、百貨店業が4,467億円で全体の約82%を占めています。クレジット・金融・友の会業、不動産業、その他の事業もありますが、「百貨店以外でも大きく稼ぐ複合企業」というより、強い百貨店を中心に、その顧客との関係を金融や不動産、旅行などへ広げようとしている会社と捉えた方が実態に近そうです。
| 2025年度・外部顧客への売上高 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 百貨店業 | 約4,468億円 | 約81.9% |
| クレジット・金融・友の会業 | 約210億円 | 約3.8% |
| 不動産業 | 約222億円 | 約4.1% |
| その他 | 約557億円 | 約10.2% |
| 合計 | 約5,456億円 | 100% |
さらに2026年8月13日に発表された2027年3月期第1四半期では、営業利益188億円のうち百貨店業が155億円を稼ぎ、営業利益構成比でも82.1%を占めています。つまり現在の利益構造を見ても、三越伊勢丹HDの土台は明確に百貨店です。
公式の三越伊勢丹HD「事業内容」では、現在の4事業を一覧で確認できます。
百貨店業|やはり三越伊勢丹の稼ぐ力の中心
2026年時点で国内百貨店は20店舗、海外では東南アジアを中心に24店舗を展開しており、その中でも会社が「最大の強み」と位置づけているのが、伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越の3つの旗艦店です。
2025年度の総額売上高を見ると、伊勢丹新宿本店は4,249億円、日本橋三越本店は1,690億円、銀座三越は1,227億円。会社集計の国内百貨店ランキングでは、それぞれ1位、5位、10位に位置しています。特に伊勢丹新宿本店は、一店舗だけで4,000億円を超える売上規模を持っています。
| 主要旗艦店 | 2025年度総額売上高 |
|---|---|
| 伊勢丹新宿本店 | 4,249億円 |
| 三越日本橋本店 | 1,690億円 |
| 三越銀座店 | 1,227億円 |
ただ、現在の三越伊勢丹にとって、これらの店舗は「大量に商品を売る箱」だけではありません。商品やイベント、販売員との接点によって人を集め、カードやアプリを通じて顧客とつながる個客業の入口でもあります。旗艦店が強いからこそ、多くの顧客と出会い、その後の関係を広げられる。この点は、単純な店舗売上だけでは見えにくい強みです。
クレジット・金融・友の会業|買い物の後も顧客とつながる
2026年6月末時点で、エムアイカードは約250万人の会員基盤を持っています。カード利用による加盟店手数料や金融収益そのものも収益源ですが、三越伊勢丹にとってはそれ以上に、「誰が買い物をしているのか」を知るための重要な顧客接点という意味があります。
百貨店だけで買い物をしても、その人が誰なのか分からなければ、一度きりの来店客で終わる可能性があります。しかしエムアイカードやアプリを通じて顧客とつながれば、購買履歴や利用状況を把握し、その後の商品提案へつなげられる。現在の個客業では、こうした「識別化」が重要なプロセスになっています。
2027年3月期第1四半期では、クレジット・金融・友の会業の営業利益は20億円で、前年同期から2億円増加しました。百貨店内でのカード利用に加えて、百貨店外での取扱高も拡大しています。
つまり金融事業は、単に「カード会社も持っています」という副業ではありません。
百貨店で出会った顧客と、その後もつながり続けるためのインフラ。
そう考えると、MISSIONで見た「ひとの力」と個客業、そして金融事業までがかなり自然につながってきます。
公式のクレジット・金融・友の会業のページでは、エムアイカードの事業と顧客基盤を確認できます。
不動産業・関連事業|百貨店の外にも収益機会を広げる
建装・デザイン、リノベーションを手掛ける三越伊勢丹プロパティ・デザインを中心に、商業施設やオフィスの賃貸、建物管理などを展開しています。グループが持つ一等地の不動産を単に保有するだけではなく、店舗や商業不動産の価値そのものを高めようとしている事業です。
ここは今後の「まち化」とも関係してきます。百貨店という建物だけで完結するのではなく、ホテル、オフィス、商業施設などを組み合わせながら、街全体で顧客との接点をつくる。そのため、不動産は現時点では利益規模の小さい事業ですが、三越伊勢丹の将来性を見るうえでは無視できません。
一方、会計上「その他」とされている事業には、人材サービス、情報システム、物流、旅行、小売・卸売などが含まれています。公式サイトではこれらを「関連事業」として紹介しており、百貨店の運営を支える機能だけではなく、旅行など顧客との接点を広げる事業もあります。
ここで大切なのは、「三越伊勢丹は百貨店以外にもいろいろやっている」と事業数だけを見ることではないと思います。現在の経営では、百貨店でつながった一人の顧客へ、グループ全体のサービスをどう提供していくかが重要になっています。不動産、金融、旅行などが別々に成長するだけでなく、一人の顧客との関係をグループ全体で広げられるかが個客業の収益化にも関わってきます。
公式の不動産業ページでは、現在の事業会社や建装・開発の内容を確認できます。
「総額売上高」と「売上高」はなぜ違う?|百貨店の決算で迷いやすいポイント
2025年度の総額売上高は1兆2,995億円なのに、連結決算の売上高は5,456億円です。数字だけを見ると、「どちらが本当の売上なの?」と思ってしまいます。
この違いには、2021年度から適用された「収益認識に関する会計基準」が関係しています。
百貨店には、商品が売れた時点で仕入れが成立する「消化仕入」と呼ばれる取引があります。三越伊勢丹は会計基準の変更に伴い、こうした取引について、自社が商品販売の「本人」なのか、仕入先と顧客をつなぐ「代理人」なのかを判断するようになりました。代理人に当たる取引では、従来は顧客から受け取った金額全体を売上としていましたが、現在は仕入先へ支払う金額を差し引いた純額を売上高として計上しています。
例えば、10万円の商品が売れ、そのうち7万円を仕入先へ支払う代理人取引だったとします。
| 例 | 金額 |
|---|---|
| 顧客が支払った商品価格 | 10万円 |
| 仕入先へ支払う金額 | 7万円 |
| 総額ベースで見た売上 | 10万円 |
| 会計上の売上高 | 3万円 |
もちろん実際の取引条件は商品ごとに異なりますが、イメージとしてはこれが「総額売上高」と「売上高」が大きく違う理由です。
そのため三越伊勢丹の決算を見るときは、
店舗そのものの販売規模や百貨店としての勢いを見る → 総額売上高
会社の損益計算書や利益率を見る → 売上高
と使い分けると理解しやすいと思います。
2025年度は総額売上高が1兆2,995億円、会計上の売上高が5,456億円でしたが、これは三越伊勢丹の商売が半分以下に縮んだという意味ではありません。売上の見せ方が会計基準によって変わっているためです。公式資料でも、総額売上高を「収益認識に関する会計基準等の適用前の数値」と明記しています。
百貨店を中心に4事業をどうつなげる?|個客業で事業構造は変わるのか
2027年3月期第1四半期でも、営業利益の82.1%を百貨店業が生み出しています。金融、不動産、関連事業が百貨店に代わる柱になったわけではありません。
しかし、個客業という視点で見ると、この4つの事業の意味は少し変わります。
百貨店で顧客と出会い、カードやアプリでつながる。不動産によって顧客が過ごす場所を広げ、旅行やその他のサービスまで利用してもらう。そうなれば、一度の買い物で終わっていた関係を、暮らしのさまざまな場面へ広げることができます。
これは、企業理念で掲げていた「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」というVISIONともつながっています。
つまり今後見るべきなのは、百貨店以外の事業が単独でどれだけ大きくなるかだけではありません。
強い百貨店で集めた顧客を、グループ全体の収益へどこまでつなげられるか。
ここが、三越伊勢丹HDの事業構造と将来性を考える重要なポイントになりそうです。





やはり今の三越伊勢丹を支えているのは百貨店なのですね。でも、百貨店で出会ったお客さまと金融や不動産までつながれれば、“百貨店の会社”という意味そのものが変わっていきそうです。
三越伊勢丹HDの強み|350年続く「顧客を見る力」は何が違う?
記事を書く前の私は、「三越という老舗ブランド」「伊勢丹新宿本店の商品力」「富裕層が多い」といった要素をそれぞれ別の強みとして考えていました。しかし、公式資料を読み込み、越後屋から現在までの歴史をつなげてみると、それだけでは少し足りないように感じます。
現在の三越伊勢丹HDは、自社の競争優位として、伊勢丹新宿本店など基幹店舗の集客力、カードやアプリで顧客とつながる力、そして「百貨店の科学」によって収益構造を変える力を挙げています。さらに統合レポートでは、350年以上かけて蓄積してきた「のれん」、顧客との深いつながり、人材、店舗、お取組先との信頼関係などを組み合わせることで、独自の強みが生まれていると説明しています。
つまり、一つだけ突出した武器があるというより、
| 三越伊勢丹の強み | 何が競争力になるのか |
|---|---|
| のれん・ブランド | 350年以上積み上げた信頼 |
| 基幹3店舗 | 世界中から顧客を集められる圧倒的な集客力 |
| 販売員・バイヤー・外商 | 顧客を理解し、提案へ変える人の力 |
| マーチャンダイジング | 顧客の変化を商品・売場へ落とし込む力 |
| 識別顧客基盤 | カード・アプリで顧客と継続的につながれる |
| 顧客データ | 感覚だけでなくデータから顧客を理解できる |
| 百貨店の科学 | 売上だけでなく利益を生む構造へ変える力 |
これらが重なっていることこそ、現在の三越伊勢丹の強さなのだと思います。
そして、その中心にあるのが「顧客を見る力」です。
越後屋では町人が買いにくい理由を見つけ、伊勢丹では10代の少女たちが自分に合う服を探している姿を見つけました。現在は販売員や外商の経験だけでなく、カードやアプリから得られるデータまで使って、一人ひとりの顧客を理解しようとしています。
350年前と方法は変わっても、「お客さまは今、何を求めているのか」という問いは変わっていません。
強み①|伊勢丹新宿本店を筆頭とする「世界から顧客を集める力」
2025年度の年間総額売上高は、伊勢丹新宿本店が4,249億円、日本橋三越本店が1,690億円、銀座三越が1,227億円。会社集計の国内百貨店ランキングでは、それぞれ1位、5位、10位に位置しています。三越伊勢丹自身も、この基幹店舗の集客力を現在の優位性の一つとして明確に挙げています。
ただし、売上高が大きいことだけが強みではありません。
伊勢丹新宿本店にはファッション、日本橋三越本店には伝統・文化・美術・暮らし、銀座三越には銀座という立地を生かした国内外の顧客との接点があります。同じ百貨店でありながら、それぞれが異なる理由で顧客を引きつけられる。
特に現在の「個客業」では、店舗の役割が以前より重要になっているように思います。デジタル化が進めば店舗はいらなくなるのではなく、まず店舗に来てもらわなければ、新しい顧客との関係も始まりにくいからです。
三越伊勢丹の個客業は、
集客 → 識別化 → 利用拡大 → 生涯顧客化
という順番で進みます。
その最初にある「集客」を支えているのが、伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越という強いリアル店舗です。ECだけでは再現しにくい商品、イベント、販売員との会話、文化体験まで含めて「わざわざ行きたい場所」をつくれるからこそ、その先の個客業につなげられます。
強み②|350年以上積み重ねた「のれん」は、なぜ今も価値があるのか
重要なのは、その名前を見た顧客がどのような期待を持つかです。
三越伊勢丹の統合レポートでは、350年以上の歴史に裏打ちされた「のれん」を知的資本として位置づけ、顧客との深いつながりや取引先との信頼関係とともに強みの源泉としています。
例えば、数百万円の時計や宝飾品、美術品を購入するとき、価格だけで販売店を決める人ばかりではありません。本物なのか、購入後も相談できるのか、家族へ引き継ぐときまで対応してくれるのか。そのような高額品になるほど、「誰から買うのか」「どの店なら安心できるのか」という信用が大きくなります。
この点で、長い時間をかけて築いた「三越」「伊勢丹」というのれんは、新規企業が短期間でコピーできるものではありません。
しかも、ブランドへの信頼は百貨店だけで完結しません。三越伊勢丹はカードやアプリへの加入を「識別化」の重要な入口としていますが、細谷CEOは、顧客がカードやアプリに加入する際にも、のれんへの信頼だけでなく、目の前で接客した販売員への信頼が重要だと説明しています。
つまり三越伊勢丹のブランドは、看板やロゴそのものではなく、「この店なら任せられる」という顧客の記憶まで含めて価値を持っているのだと思います。
強み③|販売員・バイヤー・外商が持つ「人の力」
三越伊勢丹の統合レポートでは、人材を強みの源泉となる「人的資本」と位置づけています。顧客志向、想像力、専門性を持った人材が、長年築いてきた顧客との関係や店舗という接点を使うことで、顧客が本当に求めているものを把握し、提案へ変える。この力が競争優位につながるという考え方です。
販売員なら、目の前の顧客との会話から好みを知る。バイヤーなら、顧客の変化を感じながら世界中から商品を探す。外商なら、商品だけでなく、家族構成やライフイベント、趣味なども含めて長期的な関係を築いていく。
同じ顧客を見る仕事でも、役割は少しずつ違います。
特に外商は、現在の個客業を理解するうえで重要です。個客業はデジタル時代になって突然生まれた考え方のようにも見えますが、外商は昔から「一人の顧客を深く知り、その人に合わせて提案する」商売を続けてきました。
現在は「ONEグループ外商」として、全国の外商担当者がグループのコンテンツを横断して提案できる体制を進めています。伊勢丹新宿本店の「丹青会」や日本橋三越本店の「逸品会」では、通常の店頭商品だけではなく、自動車、楽器、不動産なども含めて一人ひとりへ提案しています。2025年春の丹青会は、単日売上高46億円で過去最高を更新しました。
ここまでくると、外商は単なる「富裕層向けの訪問販売」とはかなり違って見えます。
顧客を理解し、百貨店の枠を超えて、その人に必要なものを探してくる。
これは現在の個客業の原型とも言えるのではないでしょうか。
外商顧客の客単価は「未識別顧客」の約20倍
三越伊勢丹HDが2026年8月に公表したIR情報によると、2025年度の客単価を比較すると、アプリ会員は識別されていない顧客の約2倍、エムアイカード会員は約5倍、アプリとカードの両方を利用するWメンバーは約12倍、外商顧客は約20倍でした。海外外商顧客についても、通常の海外顧客の約5倍の客単価になっています。
| 顧客とのつながり | 未識別顧客と比較した客単価 |
|---|---|
| アプリ会員 | 約2倍 |
| エムアイカード会員 | 約5倍 |
| Wメンバー | 約12倍 |
| 外商顧客 | 約20倍 |
ここで重要なのは、「富裕層だからたくさん買う」で終わらせないことです。
顧客との関係が深くなるほど、三越伊勢丹側がその人の好みを理解し、適切な情報や商品を提案できる。顧客側も「この人に相談すれば自分に合ったものが見つかる」という信頼を持つ。その結果として利用額が広がっていく構造が見えます。
つまり外商は、三越伊勢丹にとって高額品を売る営業部門であると同時に、「顧客との関係を深くすると、どこまで商売が広がるのか」をすでに実証してきた仕組みでもあるのだと思います。
強み④|835万人の「識別顧客」|経験だけではなくデータでも顧客を見る
2025年度末時点の国内識別顧客数は835万人。伊勢丹新宿本店と日本橋三越本店では、カードやアプリなどで識別できている顧客の売上高が全体の70%以上を占めています。また海外についても、2025年度末には海外顧客向けアプリとWeChatを合わせて88万人とつながり、2026年6月末には海外アプリでつながる顧客が108万人まで拡大しています。
百貨店へ100万人が来ても、その人たちが「誰なのか」分からなければ、次の提案はできません。一方、カードやアプリを通じて顧客とつながれば、購買履歴や行動を踏まえ、その人に合わせた情報を届けられます。
ここに、昔の外商にはなかった規模があります。
外商は担当者が顧客を深く理解できる反面、一人の担当者が関係を持てる人数には限界があります。デジタルを使えば、外商ほど深い関係ではなくても、数百万人単位で「誰が、何を好み、どのように利用しているのか」を理解する入口をつくれる。
外商で磨いてきた“深く知る力”を、デジタルによってより多くの顧客へ広げようとしている。
現在の個客業は、そう考えるとかなり分かりやすいと思います。
2025年度の識別顧客売上高は6,786億円まで拡大し、2026年度は6,960億円を計画しています。また、グループ全体で年間300万円以上購入する顧客の売上高も2,379億円まで増えています。
これだけの顧客基盤を持っていること自体が、競合企業や新規参入企業には簡単に真似できない資産です。
強み⑤|「百貨店の科学」で、売上だけでなく利益を生む会社へ
しかし現在の会社がもう一つ競争優位として挙げているのが、「百貨店の科学」です。
これは、昔ながらの百貨店経営を経験や慣習だけで続けるのではなく、売上・人員・経費・在庫・顧客などを細かく分析し、利益が残る構造へ変えていく考え方です。
その成果はかなり大きく、2016年度に239億円だった営業利益は2025年度に800億円まで増加。10年間で約3.3倍になりました。会社が示す営業利益率も、同期間で1.9%から14.7%へ上昇しています。会計基準変更の影響があるため単純比較には注意が必要ですが、それでもコスト構造と利益創出力が大きく改善したことは確認できます。
私がここを重要だと思うのは、「老舗百貨店」というイメージとのギャップです。
接客や感性を大切にする一方で、経営はかなり数字で管理する。
人の感性だけでもない。
データだけでもない。
企業理念のVALUESにあった「感性と情報」という考え方が、顧客提案だけでなく、経営そのものにも表れているように感じます。
高島屋・J.フロントと何が違う?|同じ百貨店でも成長の方向は違う
ここで注意したいのは、「三越伊勢丹が一番優れている」と決めることではありません。同じ百貨店をルーツに持ちながら、どの資産を使って未来をつくろうとしているのかに違いがあります。
| グループ | 現在の大きな方向性 | 特徴 |
|---|---|---|
| 三越伊勢丹HD | 個客業 | 強い旗艦店で集客し、識別顧客との関係を深める |
| 高島屋 | まちづくり・次世代型SC | 百貨店と専門店、国内外、不動産などをシームレスにつなぐ |
| J.フロント | 大丸松坂屋+PARCOを軸にリテール深化 | 富裕層・外商とMZ世代・ポップカルチャーなど異なる顧客接点を組み合わせる |
高島屋はグループ総合戦略として「まちづくり」を掲げ、百貨店と専門店、国内と海外、リアルとネットの垣根を越えるシームレス化を進めています。現在は「次世代型SC」、ベトナムを中心とした海外事業、金融を将来の成長領域として育てています。
一方のJ.フロント リテイリングは、大丸・松坂屋という百貨店にPARCOを持つことが特徴です。百貨店では外商や富裕層顧客との関係を強化しつつ、PARCOではMZ世代、ファッション、エンターテインメント、ポップカルチャーなど異なる顧客層との接点を持っています。さらに名古屋栄や心斎橋など重点エリアでグループ施設間の回遊を促す戦略も進めています。
それに対して三越伊勢丹は、現在の戦略をかなり明確に「一人ひとりの顧客との関係」へ寄せています。
もちろん高島屋やJ.フロントも顧客データやアプリ、外商を重視しています。三越伊勢丹だけが顧客戦略を行っているわけではありません。
それでも、
伊勢丹新宿本店など圧倒的な集客力を持つ店舗
× 835万人の識別顧客
× 外商・販売員という人の力
× 顧客データ
を一本の「個客業」というビジネスモデルにまとめようとしている点は、現在の三越伊勢丹を特徴づける部分だと思います。
三越伊勢丹の強みは「ブランド」だけではない|350年かけて顧客との関係を積み上げてきた
しかし今回、越後屋から現在まで調べてみると、それだけではこの会社の競争力を十分に説明できないと感じました。
ブランドがあるから、顧客が店舗へ来る。
強い店舗があるから、販売員やバイヤーが顧客と出会える。
人がいるから、顧客の声や潜在的なニーズを見つけられる。
カードやアプリがあるから、その関係を一度きりで終わらせず、データとして理解できる。
外商があるから、さらに深い関係まで築ける。
そして「百貨店の科学」によって、その強みを利益へ変える。
これらは別々の強みではなく、すべてがつながっています。
三越伊勢丹HD自身も、強みを「お客さまの声に寄り添って解決する力」「豊かな発想から新しい提案を生む力」「長期的な信頼関係を築く力」という方向で整理しています。
越後屋の時代には、三井高利が顧客の不便を商売の仕組みから変えました。伊勢丹は店頭で顧客を観察し、新しいファッションカテゴリーをつくりました。そして現在は、人の感性にカードやアプリ、購買データを加えて、数百万人単位で顧客を理解しようとしています。
350年間まったく同じ強みを持ってきたのではありません。
「顧客を見る方法」を時代に合わせて変えてきた。
私はそこに、現在の三越伊勢丹の本当の強さがあるのではないかと思います。
ただし、この強みがそのまま将来の成長を保証するわけではありません。
835万人とつながっていても、そのデータを魅力的な提案へ変えられなければ意味はない。外商という強い顧客基盤があっても、次の世代へ顧客を広げられなければ縮小していく可能性もあります。
だから三越伊勢丹の将来性を考えるうえでは、この「顧客を見る力」を使って、館業から個客業へ本当に商売の形を変えられるのかが最大の論点になります。





三越伊勢丹の強みは、老舗の名前だけではないのですね。店舗、人、外商、商品提案、そしてデータまで、すべてがお客さまを知るためにつながっています。この力を使って“個客業”へどこまで変われるのかが、これからの三越伊勢丹を見る大きなポイントになりそうです。
三越伊勢丹HDの将来性|「館業から個客業へ」で百貨店はどう変わる?
訪日客や高額品需要は確かに業績を左右しますが、どちらも景気や為替、国際情勢によって変化します。長期投資で見るなら、一時的な追い風よりも、その会社自身が商売の仕組みを変えて成長できるのかを見る必要があります。
三越伊勢丹HDが2025〜2030年度の中期経営計画で中心に置いているのが、「館業から個客業へ」というビジネスモデルの変革です。従来の百貨店は、魅力的な商品を揃えた「館」に多くの人を集め、来店した顧客へ商品を販売する商売でした。これに対して個客業では、店舗で出会った一人ひとりとカードやアプリでつながり、その人の好みや利用状況を理解し、百貨店の商品だけでなく金融、不動産、旅行などグループ全体の価値まで提案していきます。会社は2030年度に営業利益1,000〜1,100億円を目標としており、その成長を支える中心戦略として個客業を位置づけています。
ここで面白いのは、個客業が「店舗を捨ててデジタル企業になる」という話ではないことです。むしろ強い百貨店があるからこそ世界中から人を集められ、販売員や外商がいるからこそ顧客を深く理解できる。そこへデータとグループ各事業を組み合わせることで、百貨店という商売を店舗の営業時間や売場面積から解放しようとしています。
越後屋が「どう売るか」を変えたように、現在の三越伊勢丹は「どこまでを百貨店の商売と考えるのか」そのものを変えようとしているのだと思います。
個客業とは?|「集めて売る」から「一人と長くつながる」へ
会社が示すプロセスは、「集客 → 識別化 → 利用拡大 → 生涯顧客化」の4段階です。まず魅力ある店舗や商品、イベントによって世界中から人を集め、カードやアプリで一人の顧客としてつながる。その後、購買履歴や販売員との接点を使って理解を深め、利用する商品・サービスや頻度を増やし、最終的にはライフステージが変わっても長く利用してもらう関係を目指します。
| 個客業の4ステップ | 何をするのか |
|---|---|
| 集客 | 店舗・商品・イベントなどで世界中から人を集める |
| 識別化 | カード・アプリなどで「誰なのか」が分かる状態にする |
| 利用拡大 | 一人ひとりに合う提案で利用頻度・客単価を広げる |
| 生涯顧客化 | 人生の変化に寄り添い、長期的な関係へつなげる |
この中で特に重要なのが「識別化」です。店舗へ1,000万人が来ても、その人が誰なのか分からなければ、店を出た瞬間に関係は途切れます。しかしカードやアプリでつながれば、「以前何を買ったのか」「どんな情報に反応したのか」「次に何を提案できるのか」を考えられるようになる。公式にも、集客した時点では不特定多数だった顧客が、識別化して初めて“個客”になると説明されています。
言い換えれば、個客業とは百貨店の来店客を、名前の見えない「客数」から、関係を続けられる「一人の顧客」へ変えていく商売です。
2030年度に識別顧客1,100万人へ|「つながる人数」はどこまで増やせるのか
三越伊勢丹HDの公式ロードマップでは、2024年度に761万人だった識別顧客を、2027年度に950万人、2030年度には1,100万人水準まで増やす計画を示しています。
すでに2025年度末の国内識別顧客数は835万人まで増えており、2025年3月には年会費無料の「エムアイカード ベーシック」と海外顧客向けの多言語アプリを導入しました。高額品を頻繁に購入する富裕層だけではなく、これまでカードを持っていなかった顧客や訪日客まで「つながる対象」を広げようとしていることが分かります。
ただ、投資家としては会員数だけを見ても意味はありません。無料アプリを入れてもらえば人数は増やせますが、その人が二度と利用しなければ利益にはつながらないからです。
そこで会社がKPIとして重視しているのが、識別顧客売上高とグループ年間300万円以上購買顧客売上高です。2025年度の識別顧客売上高は6,786億円、年間300万円以上購買する顧客の売上高は2,379億円となり、2026年度はそれぞれ6,960億円、2,520億円を計画しています。単に会員を増やすのではなく、つながった顧客の利用をどこまで深められるかまで数字で追おうとしている点は重要です。
インバウンドを「一度きりの観光客」で終わらせない|海外顧客も個客へ
旅行中に一度高額品を買い、帰国したら二度と接点がなくなるのであれば、従来型の百貨店商売と大きく変わらないからです。
三越伊勢丹が現在取り組んでいるのは、その訪日客をカードや多言語アプリなどを通じて「誰なのか分かる顧客」へ変えることです。2026年6月末時点では海外顧客向けアプリでつながる顧客が108万人まで増え、会社は今後、海外顧客についても購買データを把握し、国内顧客と同様にパーソナライズした情報発信へつなげる方針を示しています。海外外商顧客の客単価が通常の海外顧客の約5倍となっていることからも、単に来店客を増やすより、関係を深める余地が大きいことが分かります。
訪日旅行中に銀座三越や伊勢丹新宿本店へ来る。そこで顧客としてつながり、帰国後も情報を受け取り、次回来日時には好みに合った商品やイベントを提案してもらう。さらに外商へつながれば、国境を越えて関係を持つことも考えられます。
観光客 → 顧客 → 再来店 → 継続利用
ここまで変えられるなら、インバウンドは単なる旅行需要ではなく、長期の顧客基盤になります。
外国人旅行者が日本で何を求め、なぜ百貨店を訪れるのかを知ることは、インバウンド関連銘柄を考えるうえでも重要です。三越伊勢丹の場合、その需要を一度きりの免税売上で終わらせず、生涯顧客化まで持っていけるかが他の小売企業との差になってきます。
「連邦」で百貨店の外まで利用を広げる|金融・不動産・旅行は本当に成長につながる?
これは百貨店、金融、不動産、旅行、飲食などのグループ会社が別々に顧客を囲い込むのではなく、百貨店でつながった識別顧客をグループ全体で共有し、その人に合った価値を別の事業からも提案する仕組みです。会社はこれによって顧客のウォレットシェアを広げ、各事業の収益性を高める「連邦利益」の拡大を狙っています。
例えば、百貨店で家具を購入した顧客にリフォームや住まいを提案する。旅行が好きな顧客には旅行サービスを紹介する。資産形成や決済では金融事業へつなげる。
方向性は異なりますが、小売を入口に金融や不動産など暮らし全体へ接点を広げている点では、イオンの強みと比較してみるのも面白いと思います。
こうして考えると、前に整理した4つの事業が初めて一つのビジネスモデルとしてつながってきます。
ただし、ここは三越伊勢丹の将来性を評価するうえで最も難しい部分でもあります。百貨店で洋服を買った人が、三越伊勢丹だからという理由だけで旅行や不動産まで利用するとは限りません。各サービス自体に競争力がなければ、「グループ内だから」という理由だけでは選ばれないでしょう。
だから連邦戦略を見るときは、顧客データを共有できるかではなく、共有した結果として他事業の利用が本当に増えているかを見る必要があります。
「世界・時間・空間・用途」を広げる|百貨店の制約をどこまで外せるか
これは、従来の百貨店が持つ制約を一つずつ外そうとしている考え方です。
世界は、日本の店舗へ来た人だけではなく海外の顧客まで対象を広げること。時間は、百貨店の営業時間だけではなく、アプリやデジタルを使って24時間365日つながること。空間は、売場面積の中だけではなく、ホテルやオフィス、街全体へ顧客接点を広げること。用途は、百貨店の商品だけではなく、金融、不動産、旅行、食など高感度上質な価値を広げていくことを意味します。公式資料でも、国内・海外の壁を取り払い世界中から顧客を集めること、百貨店営業時間にとどまらず24時間365日マネタイズすることまで明確に示しています。
この発想が実現すると、百貨店の売上は「一日に何人来店し、一人いくら買ったか」だけでは決まらなくなります。店舗で出会った顧客と店の外でもつながり続けられれば、営業時間や売場面積という物理的な限界を超えて収益機会を増やせるからです。
個人的には、ここが「館業から個客業へ」という言葉の本当の意味なのだと思います。
百貨店という建物を捨てるのではない。
百貨店という建物の制約を超える。
この違いはかなり大きいです。
「まち化」は何を目指している?|百貨店から街そのものへ
会社は現在の2025〜2030年度を「まち化準備」の期間と位置づけ、2030年度前後から百貨店とホテルなど複数用途を組み合わせた開発を進める構想を示しています。世界中から来街者を集め、買い物だけでなく宿泊、食事、仕事、文化体験などを含めて滞在してもらうことで、顧客と接する時間そのものを長くしようという考え方です。
「建物をつくる」のではなく、複数の用途を組み合わせて街全体の価値を高めるという考え方は、三井不動産の強みで扱った街づくりにも通じる部分があります。
ここまで来ると、三越伊勢丹が目指している姿は従来の「百貨店チェーン」とかなり違って見えます。
強い百貨店が街へ人を集め、ホテルや不動産で滞在時間を広げ、アプリで店を離れた後もつながる。そこで蓄積した顧客理解を、次の提案へ使う。つまり、まち化は単なる不動産開発ではなく、個客業で顧客とつながるための巨大なリアル接点として考えた方が分かりやすそうです。
ただし、不動産開発は多額の投資を必要とし、完成までの期間も長くなります。個客業よりさらに結果が見えるまで時間のかかる戦略なので、将来性の「期待」だけで評価せず、投資額や収益性、開発スケジュールも継続して確認する必要があります。
三越伊勢丹の将来性をどう見る?|個客業が成功したと言える条件
なぜなら、この会社はゼロから顧客基盤をつくるスタートアップではなく、すでに強い旗艦店、835万人の国内識別顧客、外商、販売員、カード、ラグジュアリーブランドとの関係を持っているからです。その既存資産をつなぎ直すことで成長しようとしているため、戦略としての筋は通っています。
一方で、「個客業」という言葉だけなら成功したかどうかを判断できません。
長期投資で追いたいのは、次の数字です。
- 識別顧客数が2030年度1,100万人水準へ近づいているか
- 識別顧客売上高が顧客数以上のペースで伸びているか
- 年間300万円以上購買する顧客売上高が増えているか
- 百貨店以外の事業利用が増え、連邦利益につながっているか
- 海外顧客が一度きりの免税客ではなく、再利用する顧客へ変わっているか
- 個客業への投資を続けながら、営業利益1,000〜1,100億円を2030年度に実現できるか
2025年度は海外顧客売上高の減少がありながら、国内顧客売上高の伸長とコストコントロールによって営業利益800億円の過去最高益を達成しました。会社は2027年度に850億円、2030年度に1,000〜1,100億円を目標としています。
重要なのは、利益がインバウンドや値上げだけで増えるのではなく、顧客との関係を深めた結果として増えているのかです。
もし識別顧客が増え、利用額が増え、百貨店以外にも利用が広がり、それが利益として積み上がっていくのであれば、「館業から個客業へ」は単なる経営スローガンではなく、新しい三越伊勢丹のビジネスモデルとして定着したと判断できるでしょう。
逆に人数だけ増えて利用が深まらなければ、350年前の越後屋のように「売り方を変えた」とまでは言えません。
越後屋から個客業へ|もう一度「売り方」を変えられるか
1673年の越後屋は、掛け売りや訪問販売が当たり前だった商売を、顧客が店へ来て現金で買える形へ変えました。伊勢丹は、売場を歩く顧客を観察しながら、ティーンエイジャーや男性向けなど新しい商品カテゴリーをつくりました。
現在の三越伊勢丹が問い直しているのは、百貨店そのものです。
「営業時間中に、店舗へ来た人へ、店舗にある商品を売る。」
長い間当たり前だったこの前提を外し、世界中の顧客と24時間365日つながり、百貨店の外の商品・サービスまで提供する。それが本当に実現すれば、「館業から個客業へ」は三越伊勢丹にとって1904年のデパートメントストア宣言以来とも言える、大きな商売の転換になるかもしれません。
ただし、歴史が長いから今回も成功するとは限りません。
350年の歴史が示しているのは「必ず成功する会社」ということではなく、顧客が変わったときに、自分たちも変えようとしてきた会社だということです。
現在の個客業がその歴史の延長にある本物の変革なのか。それとも、壮大な戦略のまま十分な収益へつながらないのか。
三越伊勢丹の将来性を見るうえで、私はここを一番追いかけたいと思います。





個客業という言葉だけを見ると、ずいぶん新しい商売に感じます。でも越後屋まで遡ると、お客さまの変化を見つけて売り方を変えるという考え方は、ずっと続いているのですね。人数を増やすだけでなく、一人ひとりとの関係を本当に利益へ変えられるのか。そこまで確認して初めて、今回の変革を評価できそうです。
三越伊勢丹HDの業績・株主還元|百貨店は本当に復活したのか
実際、三越伊勢丹HDもコロナ禍だった2020年度には209億円の営業赤字を計上しています。それだけを見ると、その後の急回復も「インバウンドが戻ったから」「円安で高額品が売れたから」と考えたくなります。
しかし業績を追ってみると、現在の三越伊勢丹は単にコロナ前へ戻ったわけではありません。
2021年度に59億円だった営業利益は、2022年度296億円、2023年度543億円、2024年度763億円、そして2025年度には800億円まで拡大しました。2025年度は海外顧客売上が減少する環境でも、国内の識別顧客売上の伸びと販売管理費のコントロールによって過去最高益を更新しています。2026年8月13日時点の2026年度計画では、さらに840億円の営業利益を見込み、実現すれば4年連続で過去最高を更新する計画です。
| 年度 | 営業利益 |
|---|---|
| 2020年度 | ▲209億円 |
| 2021年度 | 59億円 |
| 2022年度 | 296億円 |
| 2023年度 | 543億円 |
| 2024年度 | 763億円 |
| 2025年度 | 800億円 |
| 2026年度計画 | 840億円 |
だから「百貨店は復活したのか」という問いに対しては、百貨店業界全体を一括りにはできませんが、少なくとも三越伊勢丹の利益を生む力は、コロナ前とはかなり違う会社になっていると私は感じます。
問題は、この利益が一時的な追い風によるものなのか、それとも構造的に稼げる会社へ変わった結果なのかです。
営業利益800億円|「インバウンドが戻ったから」だけでは説明できない
細谷CEOも、コロナ前の営業利益300億円水準と2024年度の763億円との差約460億円について、そのうち約150億円は主に海外顧客の増加によるものだったと分析しています。
ただし、逆に言えば残る約310億円は、事業構造改革や独自戦略によって積み上げた利益ということになります。売上が増えた分だけ利益が増えたのではなく、「百貨店の科学」で見た経費構造改革、国内顧客との関係深化、商品構成の見直しなどが利益を押し上げてきました。
さらに分かりやすいのが2025年度です。海外顧客売上高が前年を下回るなかでも、国内顧客売上高の伸長とコストコントロールによって営業利益は763億円から800億円へ増加しました。総額売上高は1兆2,995億円で前年からわずかに減っていますが、それでも営業利益は増えている。これは、以前より「売上を増やさなければ利益も増えない会社」ではなくなっていることを示しています。
三越伊勢丹自身も、2016年度に239億円だった営業利益が2025年度には800億円となり、10年間で約3.3倍になったことを「百貨店の科学による構造改革」の成果として示しています。同期間の営業利益率も1.9%から14.7%へ上昇しました。会計基準の変更があるため単純な時系列比較には注意が必要ですが、それを差し引いても利益構造が大きく変わったことは確認できます。
私がここで注目したいのは、インバウンドが「利益を上乗せする材料」にはなっていても、会社の復活そのものをインバウンドだけで説明できなくなっていることです。
ROE12.5%|利益が増えただけでなく、資本効率も改善した
ROEは、株主から預かった自己資本を使って、どれだけ利益を生み出したかを見る指標です。2025年度の三越伊勢丹HDのROEは12.5%となりました。利益成長に伴う税効果など特殊要因を除いても10.8%で、会社が認識している株主資本コスト8〜9%程度を上回っています。2026年度もROE10.3%を計画しており、中期的には10%前後を維持する考えです。
| 資本効率 | 数値 |
|---|---|
| 2025年度 ROE | 12.5% |
| 特殊要因を除いたROE | 10.8% |
| 会社が認識する株主資本コスト | 8〜9%程度 |
| 2026年度ROE計画 | 10.3% |
| 2030年度目標 | 10〜11% |
ここは株価を見るうえでも重要です。
以前の百貨店株は、土地や建物など多くの資産を持ちながら十分な利益を生み出せず、「資産はあるけれど稼ぐ効率が低い会社」と評価されやすい面がありました。三越伊勢丹がROE10%超を安定して維持できるのであれば、市場からの見られ方そのものが変わる可能性があります。
一方で、ROICについては会社も事業ごとの収益力や投資効率を管理する重要な指標として意識するとしていますが、現在の公式資料ではROEのような明確な全社数値目標を前面には出していません。今後「まち化」で大型不動産投資が増えていくことを考えると、投じた資本に対して十分な利益を生めているかというROICの視点は、むしろこれから重要になると思います。
2026年度も最高益更新へ|国内顧客が成長を支えられるか
百貨店業だけで155億円を稼ぎ、前年同期から30億円増加しています。国内顧客・海外顧客の双方が堅調に推移し、8月時点の通期営業利益計画は840億円です。
興味深いのは、直近の国内売上でも識別顧客が成長をけん引していることです。2026年8月の国内顧客売上高は前年比102.5%、その中でも国内識別顧客売上高は105.7%。海外顧客売上高も前年比113.3%となりました。
これなら「海外顧客が来なくなったら終わる」という構造ではありません。
もちろんインバウンドは大きな利益機会ですが、国内の識別顧客を増やし、その利用額を伸ばしながら海外顧客も上乗せできるのであれば、業績の安定性は以前より高まります。
三越伊勢丹の今後の業績を見るときは、単純な百貨店売上だけではなく、
- 国内識別顧客売上高が伸びているか
- 海外顧客に過度に依存していないか
- 営業利益率を維持できているか
- 個客業への投資をしながら利益も伸ばせているか
をセットで確認したいと思います。
株主還元|累進配当+自社株買いで「総還元性向70%以上」へ
三越伊勢丹HDは現在、利益成長とあわせて株主還元もかなり強化しています。
2025〜2027年度にあたる中期経営計画フェーズⅠでは、配当と自己株式取得を合わせ、3年間累計で総還元性向70%以上を目安に還元する方針です。キャッシュアロケーションでは、この3年間で株主還元に約1,500億円を充てる計画も示しています。
配当は「累進配当」が基本です。
累進配当とは、基本的に前年の配当を減らさず、維持または増配していく方針です。
三越伊勢丹の年間配当は、2021年3月期の9円から、10円、14円、34円、54円、2026年3月期には70円まで増加しました。2027年3月期は、2026年9月12日時点の公式資料で年間80円を予想しています。
| 3月期 | 1株当たり年間配当 |
|---|---|
| 2021年 | 9円 |
| 2022年 | 10円 |
| 2023年 | 14円 |
| 2024年 | 34円 |
| 2025年 | 54円 |
| 2026年 | 70円 |
| 2027年予想 | 80円 |
さらに2028年3月期からは、DOE5%以上を目安とする方針です。
DOE(株主資本配当率)は、会社が持つ株主資本に対してどれくらいの配当を出しているかを見る指標です。利益が一時的に上下しても、株主資本を基準にすることで比較的安定した配当を続けやすいという特徴があります。
つまり現在の三越伊勢丹は、利益が増えた年度だけ配当を増やすのではなく、継続的に還元する仕組みそのものをつくろうとしていると見ることができます。
※三越伊勢丹HDは2026年9月30日を基準日として、10月1日付で1株を2株へ分割する予定です。今後、1株当たり配当や株価を過去と比較するときは、分割前・分割後を混同しないよう注意が必要です。会社は投資単位を引き下げることで個人株主を増やすだけでなく、株主優待を通じて株主を顧客へつなげる「個客業」の観点も分割の目的として挙げています。
自社株買いも積極化|なぜ株主還元になるのか
2024年以降だけでも複数回の自己株式取得を実施し、2025年5月から10月には約300億円、2026年2月から7月には約129億円を取得しています。取得した自己株式については消却も進めています。
自社株買いでは、市場に出回る株式数が減るため、同じ利益でも1株当たり利益(EPS)が高まりやすくなります。さらに取得した株式を消却すれば、その株式が再び市場へ出てくる可能性もなくなるため、残った株主の持分価値を高める方向に働きます。
ここでも重要なのは、単に自社株買いをしていることではありません。
三越伊勢丹は今後「まち化」など大型投資を控えています。そのため、いつまでも還元だけへ資金を使えるわけではありません。現在のフェーズⅠでは大型不動産投資が本格化する前だからこそ株主還元を厚くし、その後は成長投資とのバランスを変えていく計画です。
長期投資では「自社株買いが多いから良い」と見るだけではなく、還元した方がいい資金と、成長へ投資すべき資金を適切に分けられているかを見たいところです。
株主優待|10%割引は「還元」であると同時に個客業の入口?
2026年9月12日時点では、基準日時点で100株以上を保有する株主へ「株主様ご優待カード」が発行され、保有株数に応じた利用限度額の範囲で、三越・伊勢丹など対象店舗の買い物が10%割引になります。美容室や文化展、提携サービスなどにも優待があります。
ただし、エルメス、カルティエ、シャネル、ルイ・ヴィトン、ロレックスなど一部ブランドや商品・サービスは対象外なので、「百貨店にあるものすべてが10%引き」ではありません。
ここで私は、株主優待を単なる「お得な制度」として見るだけでは少しもったいないと思います。
三越伊勢丹自身も、2026年10月の株式分割について、個人投資家が株を買いやすくするだけでなく、個人株主は優待などを通じて大切な顧客になり得ると説明しています。株を買うことで百貨店へ行くきっかけが生まれ、実際に店舗を利用し、会社の商品や接客を知る。そこからカードやアプリへつながれば、株主が顧客にもなっていきます。
これは、
株主になる → 優待を使う → 店舗へ行く → 顧客になる → 三越伊勢丹をさらに理解する
という循環です。
もちろん株主優待だけを理由に投資判断をするべきではありませんが、「個客業」を掲げる小売企業として考えると、株主政策と顧客政策がつながっている点はかなり面白いと思います。
業績を見ると三越伊勢丹は何が変わった?|「売上の会社」から「利益をつくる会社」へ
しかし数字を追うと、現在の強さはそれだけでは説明できません。
2020年度に営業赤字へ落ち込んだ会社が、その後800億円の営業利益を生み出せるようになった。しかも2025年度は海外顧客売上が弱い中でも最高益を更新し、ROEは10%を超え、配当や自社株買いも拡大しています。
三越伊勢丹は現在、
- 百貨店の科学で利益率を高める
- 個客業で国内顧客との関係を深める
- 海外顧客を継続顧客へ変える
- 利益を成長投資と株主還元へ振り分ける
という循環をつくろうとしています。
ここまでを見る限り、私は三越伊勢丹について「百貨店が昔の勢いを取り戻した」という表現は少し違うと思います。
昔の百貨店へ戻ったのではなく、以前より利益を残せる百貨店へ変わってきた。
こちらの方が実態に近そうです。
ただし、800億円という利益水準やROE10%超を今後も維持できるかは別の問題です。個客業への投資に加えて、この先は「まち化」に向けた大型投資も始まります。利益が増えた今だからこそ、次に確認したいのは景気が悪化したとき、あるいはインバウンドが減速したときにもこの収益力を守れるのかという点です。
そこが、三越伊勢丹のリスクを考えるうえで重要になってきます。





百貨店が好調と聞くと、インバウンドのおかげだと思ってしまいがちです。でも数字を見ると、国内のお客さまとの関係や経費構造まで変わってきたことが分かります。利益が増えた今、そのお金を成長と株主還元へどう使うのかも、長期投資では大切に見ていきたいですね。
三越伊勢丹HDのリスク|老舗ブランドはこれからも強みなのか
そして現在は「館業から個客業へ」という変革にも踏み込んでいる。三越伊勢丹の強みを調べるほど、簡単には真似できない資産を多く持っている会社だと感じます。
ただし、強いブランドや顧客基盤を持っていることと、これからも成長できることは同じではありません。
三越伊勢丹HD自身も、人口動態の変化、デジタル化、既存の百貨店ビジネスモデルの衰退、地政学リスク、人材不足、資金調達、個人情報漏洩などを経営上のリスクとして認識しています。特に「ビジネスモデル変革に関するリスク」「デジタル社会への対応」「人財確保」などは影響度の大きいリスクとして整理されています。
| 三越伊勢丹を見る主なリスク | 強みの裏側で何が起こるのか |
|---|---|
| 国内人口減少・消費構造の変化 | 強い百貨店でも市場全体が縮小する |
| 富裕層・高額品需要の減速 | 高い客単価が逆回転する可能性 |
| インバウンド・為替・地政学 | 海外顧客売上が短期間で変動する |
| 個客業が計画通り進まない | 顧客数が増えても利益につながらない |
| まち化・大型投資 | 投資額が膨らみ資本効率が低下する |
| 人材不足・デジタル人材不足 | 「ひとの力」とDXの両方が弱くなる |
| 顧客データ・サイバーリスク | 個客業の強みそのものが信用問題になる |
| ブランドの陳腐化 | 「伝統」が「変われない理由」に変わる |
私が一番気になるのは、これらの多くが外から突然やって来るリスクではなく、三越伊勢丹が今まさに強みにしようとしているものの裏返しになっていることです。
個客業が強みになるほど、データ管理の重要性は高まる。まち化が成長機会になるほど、投資失敗の影響も大きくなる。「ひとの力」を競争力にするほど、人材不足は深刻になる。
だから長期投資では、「三越伊勢丹には強みがあるか」だけではなく、その強みを維持するために何が必要なのかまで見ておきたいと思います。
リスク①|国内人口が減る中で、百貨店市場はどこまで残るのか
会社の統合レポートでも、国内人口が2008年をピークに減少していることをマクロ環境のリスクとして認識しています。一方で東京都の人口は2030年ごろまで増加する見通しを機会として挙げており、人口減少を全国一律の逆風とは見ていません。
これは三越伊勢丹にとって重要です。伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越という基幹店は、人口・所得・観光需要が集まりやすい首都圏の一等地にあります。地方人口が減ったからといって、そのまま旗艦店の顧客まで同じ比率で減るわけではありません。
それでも、日本全体で人口が減り、高齢化が進めば、従来と同じ顧客層だけを相手にして成長し続けるのは難しくなります。特に百貨店は、日用品を大量に販売するスーパーとは違い、衣料品、高額品、贈答、文化催事など「百貨店だからこそ利用する理由」が求められる商売です。
だから現在の三越伊勢丹が、国内の来店客だけに依存せず、海外顧客や若い顧客、アプリ会員まで識別顧客として広げようとしていることには意味があります。
市場そのものが自然に広がる時代ではないから、自分たちで顧客をつくる必要がある。
個客業は成長戦略であると同時に、人口減少へ対応するための防衛戦略でもあるのだと思います。
リスク②|富裕層・高額品が強いからこそ、景気悪化の影響も受ける
外商顧客の客単価が未識別顧客の約20倍という数字を見ても、富裕層との関係が大きな競争力になっていることは間違いありません。
しかし、高い客単価はそのまま安定収益を意味するわけではありません。
株価や不動産価格が下落し、企業業績が悪化し、富裕層の資産効果が弱まれば、「今すぐ買わなくても困らない商品」の購入は先送りされる可能性があります。金利上昇や物価高も、富裕層だけではなく幅広い国内顧客の消費心理へ影響します。
三越伊勢丹自身も、所得・消費の二極化やインフレ、人件費・資材・エネルギー価格の上昇を、ビジネスモデル変革へ影響する要因として認識しています。
つまり現在の高額品需要が強いからといって、それを平常状態として将来の利益を考えるのは危険です。
三越伊勢丹を見るときは、景気が良いときにどれだけ高額品を売れるかだけではなく、景気が悪くなったときにも顧客がこの百貨店を使い続けるのかを見る必要があります。その意味でも、商品価格だけではなく、人、体験、文化、サービスまで含めて顧客との関係を深める個客業が本当に機能するかが重要になります。
リスク③|インバウンドは追い風だが、コントロールできない
2025年度の国内百貨店売上高に占める海外顧客売上高の比率は約12%。2026年8月単月では約16%まで上昇しており、海外顧客が重要な売上源であることは確かです。一方で、売上の大半を占めているのは今も国内顧客です。
これは安心材料でもありますが、海外顧客売上は為替、航空便、各国景気、国際関係、感染症、戦争など会社側ではコントロールできない要因に左右されます。三越伊勢丹自身も、地政学的な混乱や景気後退、為替変動などによって訪日外国人客数や免税売上が減少するリスクを公式に挙げています。
実際、2026年には中国本土からの訪日客数が減便の影響で大きく落ち込む局面もありました。それでも三越伊勢丹の海外顧客売上高は8月に前年比113.3%を維持しており、中国だけに依存せず来訪元を多様化していることが現在の強みになっています。
だから長期投資で重要なのは、「外国人旅行者が増えるか」を予想することよりも、海外顧客が減ったときでも国内顧客で支えられるか、そして一度来た海外顧客を継続顧客へ変えられるかです。
インバウンドは成長のエンジンにはなります。
でも、それだけをエンジンにしてはいけない。
このバランスが重要だと思います。
リスク④|835万人とつながっても、「個客業」が利益につながるとは限らない
識別顧客数は2025年度末で835万人まで増え、2030年度には1,100万人水準を目指しています。外商、カード、アプリ、販売員、顧客データを組み合わせる個客業には大きな可能性があります。
しかし、顧客の名前が分かることと、その顧客から利益を生み出せることは別です。
アプリを入れてもらっても開いてもらえなければ意味がない。購買履歴が分かっても、魅力的な提案ができなければ購買頻度は増えません。百貨店でつながった顧客へ旅行や金融、不動産を提案しても、それぞれのサービスに競争力がなければ他社が選ばれます。
三越伊勢丹自身も、「既存の百貨店ビジネスモデルの衰退」と「ビジネスモデル変革の遅れ」を経営上のリスクとして明記しています。人口動態、消費の二極化、デジタル化などによって顧客行動が変化する中、新しいビジネスモデルへの転換が遅れれば業績や財務へ悪影響を与える可能性があるとしています。
個客業が成功したかを見るなら、識別顧客数だけでは足りません。
識別顧客売上が増えているか。客単価が上がっているか。他事業利用が増えているか。そして最終的に利益へ変わっているか。
この順番を追う必要があります。
越後屋は売り方を変えた結果として、新しい顧客を生み出しました。現在の個客業も、スローガンではなく数字が変わったときに初めて「もう一度、売り方を変えた」と評価できるのだと思います。
リスク⑤|「まち化」は大きな成長機会であると同時に、大型投資でもある
百貨店、ホテル、オフィス、飲食、文化施設などを一つの街としてつなぎ、買い物だけではなく滞在時間そのものを伸ばす。個客業をリアル空間へ広げる戦略として非常に面白いと思います。
その一方で、不動産開発には多額の資金と長い時間が必要です。
三越伊勢丹HDは個客業への変革に向けて、コンテンツ、DX・システム、不動産、生産性向上、安心・安全などへ1,000億円水準の投資が必要と認識しています。市場金利の上昇や業績悪化によって資金調達コストが増えれば、戦略の遅延や変更を余儀なくされる可能性があることも公式にリスクとして挙げています。
ここはROICの話ともつながります。
完成した街が魅力的でも、投じた資本に対して十分な利益が残らなければ、株主にとって良い投資だったとは言えません。さらに不動産開発は完成まで時間がかかるため、その間に建設費、人件費、金利、消費トレンドが変わる可能性もあります。
個人的には、これまで三越伊勢丹の投資を見るときは「百貨店の利益が伸びているか」が中心でしたが、今後はそれだけでは足りなくなると思います。
投資額はいくらか。完成後にどれだけ利益を生むのか。ROICは資本コストを上回るのか。
まち化が本格化するほど、この視点が重要になります。
リスク⑥|「ひとの力」とデータを使う会社だからこそ、人材・情報管理が生命線になる
だからこそ、人材不足は単なる採用問題ではありません。販売員、バイヤー、外商の専門性が落ちれば、ブランドがどれだけ強くても「この人から買いたい」という顧客体験が弱くなります。さらに個客業では、不動産、金融、DXなど百貨店とは異なる専門領域の人材も必要になります。
会社自身も、少子高齢化による人材獲得競争の激化に加え、不動産・金融・関連事業の成長を担う専門人材や経営人材を確保・育成できなければ、経営目標や事業成長へ影響する可能性があるとしています。
もう一つ、個客業が進むほど重要になるのが顧客データです。
カードやアプリによって顧客の購買履歴や行動を理解できることは三越伊勢丹の強みですが、その裏側ではサイバー攻撃や個人情報漏洩が起きた場合の影響も大きくなります。会社のリスクマップでも、サイバー攻撃と個人情報漏洩・紛失は重点リスクとして位置づけられています。
個客業では、「あなたのことを理解しています」という関係をつくろうとしています。
だからこそ、情報を預けた顧客が「この会社になら任せられる」と思えなくなった瞬間、そのビジネスモデルの根本が崩れます。
人の信頼と、データへの信頼。
三越伊勢丹が個客業を広げるほど、この二つを同時に守る必要があります。
350年の歴史は、変わり続ける限り強みになる
「老舗であること」は、いつまで強みでいられるのか。
越後屋が店前現銀掛値なしを始めたとき、それまでの呉服商の常識を守りませんでした。三越がデパートメントストア宣言を出したときも、成功していた呉服店という形を守りませんでした。伊勢丹も、既存の商品分類に顧客を合わせるのではなく、顧客を見て新しいカテゴリーをつくってきました。
つまり、350年以上続いた理由を「伝統を守ってきたから」と考えると、少し違うのだと思います。
守ってきたのは商売の形ではなく、お客さまを見るという姿勢だった。
だから「昔から三越伊勢丹だから」という理由だけで顧客が来続けると考え始めた瞬間、350年の歴史は強みではなく重荷になる可能性があります。
個客業も、まち化も、ブランドも、外商も、成功が約束された資産ではありません。顧客が変わったときに、それらをもう一度変えられるかどうかが重要です。
私は三越伊勢丹を長期投資先として見るなら、業績悪化やインバウンド減少といった短期的なリスクだけでなく、「この会社は今も顧客の変化を見つけ、自分たちを変えられているか」を最も大切に追いかけたいと思います。
350年の歴史が未来の強みになるかどうかは、歴史の長さでは決まりません。
変わり続ける力が、今も残っているか。
そこにかかっています。





350年続いてきたこと自体が、未来の成功を保証してくれるわけではないのですね。むしろ、お客さまや時代が変わるたびに自分たちも変えてきたからこそ、今があります。個客業やまち化でも、その“変わる力”が本当に残っているのかを見続けたいですね。
三越伊勢丹HDの株価分析|業績改善はどこまで織り込まれている?
営業利益は過去最高の800億円まで拡大し、2026年度は840億円を計画。ROEも2025年度に12.5%まで上昇し、累進配当や自社株買いも強化されています。ここまで数字が改善していると、「株価もまだ上がるのではないか」と考えたくなります。
ただ、株式投資では良い会社であることと、今の株価が安いことは別の話です。
2026年9月11日の終値は3,151円。予想PERは約17.5倍、PBRは約1.84倍、予想配当利回りは約2.54%となっています。2026年の年初来高値4,192円からは約25%下落していますが、2025年末の2,275円から見れば約39%高い水準です。つまり高値からはかなり調整した一方、利益回復や将来への期待がまだ株価に相当織り込まれている状態だと考えた方がよさそうです。
| 2026年9月11日時点 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 3,151円 |
| 予想PER | 約17.5倍 |
| PBR | 約1.84倍 |
| 実績ROE | 12.5% |
| 予想配当 | 80円 |
| 予想配当利回り | 約2.54% |
| 年初来高値 | 4,192円 |
| 年初来安値 | 2,304円 |
私が三越伊勢丹の株価を見るうえで特に重要だと思うのは、以前のような「資産は持っているけれど利益率の低い百貨店」として評価するのか、それともROE10%以上を継続できる高収益企業へ変わった会社として評価するのかという点です。
今のPBR1.84倍は、その答えを市場がすでにかなり前向きに見ている数字でもあります。
株価はどこまで上がった?|2024年の急騰から2026年の4,192円へ
2020年にはコロナ禍で株価が479円まで下落しました。その後、業績回復とともに2022年末1,437円、2023年末1,534円へ上昇。2024年には年間で約79%上昇して2,752.5円まで買われました。2025年は一度調整して2,275円で終えましたが、2026年に入ると再び上昇し、6月30日には4,192円の年初来高値を付けています。
| 年 | 年末株価・現在値 | 年間騰落 |
|---|---|---|
| 2021年 | 850円 | +39.3% |
| 2022年 | 1,437円 | +69.1% |
| 2023年 | 1,534円 | +6.8% |
| 2024年 | 2,752.5円 | +79.4% |
| 2025年 | 2,275円 | ▲17.4% |
| 2026年9月11日 | 3,151円 | 2025年末比 約+39% |
これは単なる「コロナからの客足回復」だけでは説明しにくい上昇です。営業利益が過去最高を更新し、ROEが改善し、累進配当や自社株買いも強化されたことで、三越伊勢丹そのものに対する市場の評価が変わったと考えられます。
一方で、4,192円から3,151円まで約25%下落したことも軽視できません。
株価が短期間で大きく上昇すれば、決算が良くても「期待したほどではない」と判断されただけで売られることがあります。業績が悪化していなくても、期待値が高くなりすぎれば株価は調整する。2026年の値動きは、三越伊勢丹がすでに「復活する百貨店」ではなく「さらに成長する会社」であることまで求められる株価になったことを表しているように感じます。
PER約17.5倍|利益成長を考えると高すぎるのか
2026年9月11日時点の三越伊勢丹HDは、株価3,151円に対して市場データ上の予想PERが約17.5倍となっています。会社は2027年3月期に営業利益840億円、純利益630億円を計画しており、公式計画の1株当たり利益は株式分割前で184.96円です。
PER17倍台だけを見れば、極端な割高株という印象はありません。一方で、百貨店という成熟産業の企業に対して「かなり安い」と言える倍率でもないと思います。
重要なのは、このPERを何の利益に対して払っているのかです。
もし営業利益800〜840億円あたりがピークで、今後ほとんど成長しないのであれば、PER17倍台にはそれなりの成長期待が含まれています。しかし個客業が進み、2030年度に目標とする営業利益1,000〜1,100億円へ近づいていくのであれば、現在の利益だけを基準にしたPERほど割高ではなくなっていきます。
つまり今の株価は、
「百貨店が復活した会社」を買う価格というより、
「ここからもう一段利益を伸ばせる会社」を買う価格。
私はそう見ています。
今後、営業利益が840億円付近で止まるのか、それとも個客業・海外顧客・連邦・まち化によって1,000億円を超えていくのか。この違いが、現在のPER17倍台を高いと見るか、妥当と見るかを大きく左右します。
PBR1.84倍|「PBR1倍割れの百貨店」ではなくなった
PBRは株価を1株当たり純資産で割った指標で、2026年9月11日時点では約1.84倍です。BPSは1,713.46円なので、単純計算ではPBR1倍の株価は約1,713円になります。現在の3,151円は、その約1.84倍まで評価されていることになります。
以前の百貨店企業は、不動産など多くの資産を保有していても十分な利益を生み出せず、PBR1倍前後あるいはそれ以下で評価されることも珍しくありませんでした。しかし現在の三越伊勢丹はROE12.5%を実現し、2026年度も10.3%を計画しています。会社自身も2030年度にROE10〜11%を維持することを目指しています。
ここが重要です。
PBRが1倍を超えていること自体を「割高」と考えるのではなく、それだけの資本効率を今後も生み続けられるかを見る必要があります。
現在のBPS1,713円をそのまま使ってPBR別の株価を単純計算すると、おおよそ次の水準になります。
| PBR | 株価の単純目安 |
|---|---|
| 1.0倍 | 約1,710円 |
| 1.5倍 | 約2,570円 |
| 1.7倍 | 約2,910円 |
| 1.84倍前後 | 約3,150円 |
| 2.0倍 | 約3,430円 |
| 2.2倍 | 約3,770円 |
もちろんBPSそのものも利益蓄積や自社株買いによって変化するため、この表を「適正株価」と考えることはできません。それでも、市場が現在どのくらいの評価を与えているのかを考える目安にはなります。
私なら特にPBR1.5〜1.7倍付近で市場がどのような成長率を織り込んでいるのかを意識したいです。現在の1.84倍は、会社が過去最高益を更新し続け、ROE10%以上を維持するという期待がある程度入っている水準だからです。
逆に、ROEが再び一桁台へ低下し、個客業の成長も止まれば、PBRが縮小して株価が下がる可能性があります。
「PBRが何倍だから買う」のではなく、
「そのPBRを支えられるROEなのか」を見る。
三越伊勢丹では、この考え方がかなり重要だと思います。
高値4,192円から約25%下落|今は「買いやすくなった」のか
これだけ下がると、チャートだけを見ればかなり買いやすくなったように感じます。
実際、4,192円を現在のBPSで見るとPBRは2倍を大きく超える水準でした。そこから利益見通しが大きく崩れていない中で3,000円台前半まで調整したことで、少なくとも高値時よりバリュエーションは落ち着いています。
ただし、現在でもPBR約1.84倍、予想PER約17.5倍です。
「25%下がったから安い」のではなく、「25%下がって、ようやく期待値が少し落ち着いた」と見る方が近いと思います。
個人的には、三越伊勢丹のように業績改善によって市場評価そのものが切り上がった銘柄では、「昔1,000円台だったから今は高い」という判断もあまり意味がありません。利益水準、ROE、株主還元が当時とは大きく違うからです。
一方で、4,000円を超えていたから3,100円なら安い、という考え方も危険です。
見るべきなのは過去の株価ではなく、
- 営業利益840億円からさらに伸ばせるのか
- ROE10%以上を維持できるのか
- 識別顧客売上・年間300万円以上顧客売上が伸びるのか
- まち化など大型投資でもROICを確保できるのか
- 配当と自社株買いを続けながら成長投資できるのか
という、現在の株価評価を支えている前提が崩れていないかです。
ここが崩れれば3,151円でも高くなりますし、利益が想定以上に成長すれば3,151円でも結果的に安かったということになります。
10月1日の1株→2株分割には注意
三越伊勢丹HDは9月30日を基準日として、普通株式を1株につき2株へ分割します。目的は投資単位を引き下げ、個人投資家を含む新しい株主を増やすことで、会社は株主優待を通じて株主を顧客へつなげる「個客業」の観点も説明しています。
例えば9月11日の3,151円を単純に2分割すると、理論上は約1,576円です。
もちろん会社の価値が半分になるわけではありません。保有株数が2倍になるため、分割前後で経済的価値は原則として変わりません。
ただ、10月以降にチャートを見ると株価が突然半分になったように見えるため、過去のPER・配当・株価と比較するときには注意が必要です。この記事でも、今後数字を更新するときは株式分割前か分割後かを必ず揃えて比較する必要があります。
私は今の株価をどう見る?|「割安株」よりも、成長を確認しながら買う株
営業利益800億円、ROE12.5%、個客業、累進配当、自社株買い。以前の三越伊勢丹と比べれば、会社の中身はかなり良くなっています。一方、市場もその変化に気づいているからこそ、PBRは1.84倍まで上昇しています。
つまり現在の株価では、
「百貨店が復活した」ことはかなり織り込まれている。
これから株価がさらに評価されるためには、
「復活した会社」から「継続的に成長できる会社」へ進めることを数字で証明する必要がある。
私はそう考えています。
特に追いたいのは、営業利益が840億円から1,000〜1,100億円へ本当に近づいていくのか、ROE10%以上を維持できるのか、識別顧客数だけでなく顧客一人当たりの利用が深まるのか、そして「まち化」に投じた資本から十分な利益を生めるのかです。
逆に、景気悪化やインバウンド減速によって一時的に株価が下がったとしても、これらの前提が崩れていなければ、長期投資家にとっては見方が変わります。
私は三越伊勢丹について、株価だけを見て底値を当てに行くより、企業価値を支える数字が伸び続けているかを確認しながら評価したい銘柄だと感じています。
350年の歴史、強い旗艦店、外商、835万人の識別顧客。それだけなら「強い百貨店」です。そこから個客業によって利益を伸ばし、ROE10%以上を維持し、大型投資でも資本効率を落とさない。そこまでできれば、三越伊勢丹に対する市場の評価がもう一段変わる可能性があります。





高値から下がったから安い、業績が良いから買い、というだけでは判断できないのですね。三越伊勢丹はすでに“復活”をかなり評価されています。これからは個客業やまち化によって利益をさらに伸ばし、ROE10%以上を維持できるのか。その数字を追いながら株価を見ることが大切だと思います。
三越伊勢丹HDを長期投資先としてどう見る?|「百貨店の復活」で終わる会社ではないのか
確かに、百貨店市場そのものが大きく拡大していくとは考えにくいです。高額品やインバウンドへの依存、個客業が計画通り利益につながるのか、「まち化」に向けた大型投資など、これから確認しなければならないことも多くあります。
それでも、ここまで企業研究を進めたことで見方はかなり変わりました。
現在の三越伊勢丹は、単に「百貨店市場の中でシェアを取り合う会社」ではありません。強い旗艦店で顧客を集め、販売員や外商が関係をつくり、カードやアプリで識別し、その顧客との関係を金融、不動産、旅行などへ広げる。さらに「百貨店の科学」によって利益率を高め、その利益を個客業やまち化への投資、配当、自社株買いへ振り分けようとしています。
2025年度には営業利益800億円、ROE12.5%を実現しました。中期経営計画では2030年度に営業利益1,000~1,100億円、ROE10~11%を目標としており、「館業から個客業へ」という変革によってさらに利益を伸ばそうとしています。
私が長期投資先として評価したいのは、350年という歴史そのものではありません。
すでに持っている強い資産を使って、次の利益をつくろうとしていること。
ここが三越伊勢丹を見るうえで一番重要だと思います。
長期投資で評価したいのは「完成された強さ」と「まだ残る成長余地」
伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越という旗艦店は、これからゼロからつくる必要がありません。三越・伊勢丹というのれん、販売員、バイヤー、外商、取引先との関係も、長い年月をかけてすでに築かれています。国内識別顧客も835万人まで広がっています。
つまり三越伊勢丹は、新しい成長戦略を始めるために「まず顧客を集めるところ」から始めなくていい。
すでに集まっている顧客との関係を、どこまで深くできるか。
ここに成長余地があります。
| 長期投資で見る資産 | これからの成長余地 |
|---|---|
| 強い旗艦店 | 集客した人を識別顧客へ変える |
| 350年以上のブランド | 信頼を新しい世代・海外顧客へ広げる |
| 販売員・外商 | 一人ひとりへの提案をさらに深める |
| 835万人の識別顧客 | 利用頻度・客単価・他事業利用を広げる |
| 百貨店の科学 | 利益率・生産性をさらに高める |
| 金融・不動産・旅行など | 個客業の「連邦」で利用を横へ広げる |
| 一等地のリアル資産 | 「まち化」で滞在時間そのものを広げる |
会社自身も、個客業を「集客→識別化→利用拡大→生涯顧客化」と整理し、2030年度までにこのビジネスモデルを磨くことで1,000億円を超える営業利益を目指しています。
これなら、日本の百貨店市場そのものが大きく成長しなくても、一人の顧客から得られる価値を深めることで会社として成長できる可能性があります。
私はここに、三越伊勢丹を単なる「成熟した百貨店株」とは見ない理由があります。
一方で、これからは「投資して成長する会社」になる
これまでは「百貨店の科学」によるコスト構造改革や高額品需要、国内識別顧客の拡大などによって、既存事業の収益性を大きく改善してきました。
これからは個客業のシステム、人材、コンテンツ、不動産、そして「まち化」へ資金を使いながら成長する段階へ移っていきます。
つまり見るべき数字も変わります。
営業利益が増えているだけでは足りません。投じた資金に対してどれだけ利益を生み出せたのか、ROEだけでなくROICも重要になります。会社も2030年度にROE10~11%を目指すとともに、ROICを意識して事業ごとの収益力と投資効率を管理する方針を示しています。
まち化が成功して魅力的な街が完成しても、巨額の投資に対して十分な利益が残らなければ、株主にとって良い成長とは言えません。
逆に、個客業やまち化へ投資しながらROE10%以上を維持し、営業利益を1,000~1,100億円まで伸ばせるのであれば、現在の三越伊勢丹に対する評価はさらに変わる可能性があります。
「利益を増やせるか」から、「資本を使って効率よく利益を増やせるか」へ。
長期投資では、ここを追いかけたいと思います。
株主還元は魅力だが、「高配当株」として買う会社ではない
現在は累進配当を基本とし、2025~2027年度のフェーズⅠでは配当と自社株買いを合わせた総還元性向70%以上を方針としています。さらに2028年3月期からはDOE5%以上を目安に配当する方針です。
これは長期保有を考えるうえでプラスです。
ただ、私は三越伊勢丹を「配当をもらい続けるための高配当株」として見るより、利益成長と株主還元を両方期待する銘柄として見た方が合っていると思います。
今後はまち化などへの投資も増えていきます。会社が成長機会を持っているのであれば、利益をすべて株主へ返すことが最善とは限りません。
重要なのは、
成長へ使った方が企業価値を高められる資金は投資する。
余剰資金は配当や自社株買いで株主へ返す。
この資本配分をうまく続けられるかです。
株主還元が厚いこと自体よりも、成長投資と還元を両立できるほどキャッシュを生み出せる会社になれるかを評価したいと思います。
長期投資で私が追いたい数字|「個客業」が本物かを確認する
- 営業利益:840億円から2030年度の1,000~1,100億円へ近づいているか
- ROE・ROIC:ROE10%以上を維持し、大型投資でも資本効率を落としていないか
- 識別顧客数と識別顧客売上高:人数だけでなく、一人当たりの利用が深まっているか
- 年間300万円以上購買する顧客の売上高:深い顧客関係がさらに広がっているか
- 連邦利益・百貨店以外の利用:金融、不動産、旅行などへ顧客利用が本当に広がっているか
- 海外顧客:一度きりの免税客ではなく、継続利用する顧客へ変えられているか
- まち化への投資額と収益性:構想だけでなく、投じた資本が利益へ変わっているか
- 株主還元:累進配当と自社株買いを、財務を傷めず続けられているか
個客業が成功したかどうかは、「アプリ会員が増えました」というニュースだけでは判断できません。
顧客が増える。
利用が深くなる。
百貨店以外にも広がる。
そして最終的に利益が増える。
この流れが数字として確認できて初めて、三越伊勢丹は本当に「館業から個客業へ」変わったと言えるのだと思います。
私なら三越伊勢丹をどう評価する?|魅力はある。ただし「価格を選びたい会社」
特に評価したいのは、営業利益800億円やROE12.5%という現在の数字だけではありません。
越後屋から受け継いできた顧客を見る力、世界から人を集められる旗艦店、外商、835万人の識別顧客、販売員やバイヤー、カード・アプリ、そしてそれらを「個客業」という一つのビジネスモデルへまとめようとしていることです。
一方で、株価分析で見たように、現在はすでに「復活した百貨店」という評価だけで買われているわけではありません。
市場はその先の成長まで期待しています。
だから私なら、三越伊勢丹について、
良い会社だからすぐ買う。
ではなく、
良い会社だからこそ、成長を確認しながら、買う価格を選ぶ。
という向き合い方をしたいです。
長期的に一番期待しているのは、個客業によって「百貨店へ来た人へ商品を売る会社」から、一人の顧客と長くつながり、その人の暮らし全体へ価値を届ける会社へ本当に変われるかという部分です。
もし営業利益1,000~1,100億円を実現しながらROE10%以上を維持し、まち化への投資でも十分な資本効率を確保できるのであれば、「百貨店株」という括りそのものが三越伊勢丹には合わなくなってくるかもしれません。2030年度の営業利益1,000~1,100億円、ROE10~11%という目標は、その変化を測る大きな基準になります。
逆に、識別顧客数だけが増えて利用が深まらない、まち化の投資負担が重くなる、ROEが再び一桁台へ落ちるのであれば、現在の高い評価を維持するのは難しくなるでしょう。
だから私は、三越伊勢丹を「350年続いたから安心できる会社」とは見ません。
350年変わり続けてきた会社が、今回も本当に変われるのか。
そこを確認しながら長期で追いかけたい会社です。





三越伊勢丹には、長い歴史の中で積み上げてきた強みがあります。でも長期投資で大切なのは、昔の強さではなく、その強みを次の利益へ変えられるかどうかですね。個客業やまち化が数字として成果を出しているのかを確認しながら、株価とも向き合っていきたいです。
まとめ|越後屋から個客業へ、350年続く三越伊勢丹の強さの正体
老舗百貨店として長く支持されてきたこと自体が、この会社の強さなのだろうと思っていたからです。
もちろん、それらは今も大きな競争力です。
ただ、越後屋の創業から現在の個客業まで歴史をたどると、この会社の強さを「老舗だから」「ブランド力があるから」だけで説明するのは少し違うように感じました。350年以上同じ商売を守ってきた会社ではなく、顧客が変わるたびに、自分たちの売り方まで変えてきた会社だったからです。
今回の企業研究で見えてきた三越伊勢丹の強みを、最後にもう一度整理してみます。
三越伊勢丹の強みは「老舗ブランド」だけではなかった
350年以上積み重ねてきたのれんと信用。伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、銀座三越という強い旗艦店。販売員・バイヤー・外商が持つ「ひとの力」。伊勢丹が長年磨いてきたマーチャンダイジングの発想力。そしてカードやアプリによってつながった835万人の識別顧客です。
さらに現在は、その強みを「百貨店の科学」によって利益へ変え、金融、不動産、旅行などグループのさまざまな事業へ顧客との関係を広げようとしています。
整理すると、三越伊勢丹の強みは次のようになります。
- 350年以上積み上げてきたのれん・ブランド・信用
- 世界中から人を集める旗艦店の集客力
- 販売員・バイヤー・外商による「ひとの力」
- 顧客の変化を商品や売場へ落とし込むマーチャンダイジング
- 835万人まで広がった識別顧客基盤
- 人の感性と顧客データを組み合わせる個客業
- 経験だけに頼らず利益構造を改善する「百貨店の科学」
- 金融・不動産・旅行などへ利用を広げるグループの連邦
- 百貨店から街そのものへ顧客接点を広げる「まち化」
重要なのは、これらが別々に存在しているわけではないことです。
ブランドがあるから人が集まり、強い店舗があるから販売員やバイヤーが顧客と出会える。そこで生まれた関係をカードやアプリでつなぎ、顧客データを使って理解を深め、外商やグループ各事業へ利用を広げる。そして「百貨店の科学」によって、その強みを利益へ変えていく。
一つひとつの強みを、一人の顧客を中心につなげられること。
ここに、現在の三越伊勢丹の競争力があるのだと思います。
350年続いた理由は「伝統を守ったから」ではなく、商売を変えてきたから
1673年、三井高利は、得意先を訪問して掛け売りすることが当たり前だった呉服商の世界に、店頭販売、現金決済、正札、切り売りという新しい仕組みを持ち込みました。
1904年には、三越が呉服店という枠を越えて「デパートメントストア」へ転換します。
伊勢丹も、既存の商品分類へ顧客を合わせるのではなく、売場を歩く10代の少女たちを見て「ティーンエイジャー」という新しいカテゴリーをつくり、その後も男性、サイズ、食などへファッションの考え方を広げてきました。
2008年には、異なる強みを持つ三越と伊勢丹が経営統合しました。
そして現在は、「館業から個客業へ」というビジネスモデルの変革に挑んでいます。
時代によってやっていることはまったく違います。
それでも、根っこにある問いは似ています。
「今の商売のやり方は、本当にお客さまに合っているのか。」
越後屋はこの問いから売り方を変え、伊勢丹は売場や商品カテゴリーを変えました。現在の三越伊勢丹は、百貨店という「館」に人を集めるだけの商売でいいのかを問い直しています。
350年間守ってきたものがあるとすれば、昔の商売の形ではありません。
顧客を見て、必要なら自分たちも変わる。
この姿勢こそ、三越伊勢丹のマーケティング力の原点なのだと思います。
個客業は、次の「売り方の変革」になれるか
従来の百貨店は、魅力的な商品を揃えた館に多くの人を集め、その場で商品を買ってもらう商売でした。しかし個客業では、店舗で出会った顧客とカードやアプリでつながり、その人を理解し、利用を広げ、最終的には生涯顧客へつなげようとしています。
つまり、
集客 → 識別化 → 利用拡大 → 生涯顧客化
という流れです。
さらに三越伊勢丹が目指しているのは、百貨店の商品だけを販売することではありません。金融、不動産、旅行、食などグループ全体へ顧客との関係を広げ、「世界・時間・空間・用途」という百貨店の制約そのものを外そうとしています。
もしこれが実現すれば、三越伊勢丹は「営業時間中に、店舗へ来た人へ、店舗の商品を売る会社」ではなくなります。
ただし、835万人とつながっているから個客業が成功したとは言えません。
顧客数が増える。
利用が深くなる。
百貨店以外にも利用が広がる。
そして利益が増える。
この流れが数字として確認できて初めて、「館業から個客業へ」という変革が本物だったと評価できます。
越後屋が売り方を変えて新しい顧客を生み出したように、現在の三越伊勢丹ももう一度、商売の仕組みそのものを変えられるか。
私はここが、三越伊勢丹の将来性を見る最大のポイントだと思います。
長期投資では「復活」ではなく、その先の成長を確認したい
2025年度の営業利益は800億円まで拡大し、ROEは12.5%。累進配当や自社株買いも強化されました。中期経営計画では2030年度に営業利益1,000~1,100億円、ROE10~11%を目標としています。
以前の「資産は持っているけれど利益率の低い百貨店」という姿からは、かなり変わってきました。
一方で、株価にもその変化は反映されています。
だから長期投資で見るなら、「百貨店が復活したから買う」という段階ではなく、その先の利益成長を本当に実現できるのかを見る必要があります。
私が今後追いたいのは、毎日の株価よりも次の数字です。
- 営業利益が1,000~1,100億円へ近づいているか
- ROE10%以上を維持できているか
- 識別顧客数だけでなく、識別顧客売上高も伸びているか
- 年間300万円以上利用する顧客層が広がっているか
- 金融・不動産・旅行など他事業へ利用が広がっているか
- 海外顧客を一度きりの免税客で終わらせていないか
- 「まち化」への大型投資でも十分なROICを確保できているか
- 成長投資を続けながら株主還元も維持できているか
これらが伸びていけば、三越伊勢丹は単なる「復活した百貨店」ではなく、百貨店という強い入口を持った新しい小売グループへ変わっていく可能性があります。
逆に、個客業が会員数を増やすだけで終わったり、まち化の投資負担によって資本効率が低下したりすれば、現在の高い評価を維持するのは難しくなるでしょう。
だから私は、三越伊勢丹を「350年続いた安心できる会社」だから追いかけるのではありません。
350年変わり続けてきた会社が、今回も本当に変われるのか。
その答えを数字で確認していきたいと思います。
まとめ|350年磨いてきたのは「顧客を見る力」
老舗というと、昔から受け継いできたものを大切に守り、変えないことに価値がある会社のように感じます。
でも三越伊勢丹の歴史は、少し違いました。
越後屋は売り方を変えました。
三越は呉服店から百貨店へ変わりました。
伊勢丹は顧客を見ながら商品や売場の常識を変えました。
そして現在は、「館業から個客業へ」を掲げています。
350年間ずっと同じ強みを持ってきたわけではありません。
「顧客を見る方法」を、時代に合わせて変えてきた。
私はそこに、三越伊勢丹の本当の強さがあるのではないかと思います。
企業理念のMISSIONは、
こころ動かす、ひとの力で。
でした。
VALUESでは感性だけではなく情報を使い、共創し、変化へ挑む姿勢を掲げています。そしてVISIONでは、“特別な”百貨店を中核としながら顧客の暮らしへ価値を広げようとしています。
こうして歴史、理念、現在の経営戦略をつなげると、三越伊勢丹が目指している方向にはかなり一貫性があります。
もちろん、理念と戦略がきれいにつながっているから成功するわけではありません。
個客業も、まち化も、大型投資も、結果はこれからです。
それでも、350年という歴史から学べることがあります。
顧客が変われば、自分たちも変わる。
この姿勢が今も残っているのであれば、三越伊勢丹にはまだ次の成長をつくれる可能性があります。
三越伊勢丹の将来性を決めるのは、350年という過去の長さではありません。
350年磨いてきた「顧客を見る力」を、次の時代でも使い続けられるか。
これからも、その変化を追いかけていきたいと思います。





350年以上続いていると聞くと、“変わらなかった会社”のように思ってしまいます。でも調べてみると、お客さまが変わるたびに商売の形まで変えてきた会社だったのですね。個客業も、その歴史に並ぶ大きな変革になるのか。これから数字を追いながら見ていきたいです。
三越伊勢丹HD 投資家ノート





この記事の分析内容をもとに、三越伊勢丹HDの業績や株価を長期的に追いかけていきます。
企業研究は一度記事を書いて終わりではなく、決算、実態的な収益力、配当金、成長分野への投資、株価、信用需給などの変化を確認しながら、この投資家ノートを継続的に更新していく予定です。
※この記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。企業の新しい取り組みがあれば、随時内容を更新していきます。
投資研究メモ 2026年9月13日時点
【現在の評価】
★★★★☆
【長期保有】
★★★★☆
【企業理念】
★★★★★
【成長性】
★★★★☆
【株価妙味】
★★★☆☆
【配当】
★★★☆☆
【働きたい会社】
★★★★☆
【注目ポイント】
・三越伊勢丹最大の強みは、350年以上の歴史そのものではなく、顧客の変化に合わせて商売の形を変えてきたこと。越後屋の売り方改革から、現在の「館業から個客業へ」まで一貫している
・強い旗艦店、ブランド、販売員・バイヤー・外商、マーチャンダイジング、835万人の識別顧客など、簡単には真似できない資産を持つ
・個客業では、集客→識別化→利用拡大→生涯顧客化を進め、百貨店だけでなく金融・不動産・旅行などへ顧客との関係を広げようとしている
・2025年度の営業利益は800億円、ROE12.5%。2030年度には営業利益1,000~1,100億円、ROE10~11%を目標としており、今後は「復活」よりもその先の利益成長を確認したい
・2026年9月11日終値は3,151円、予想PER約17.5倍、PBR約1.84倍、予想配当利回り約2.5%。以前のような低評価株ではなく、成長期待もある程度織り込まれている
・累進配当や自社株買いも強化。今後は成長投資と株主還元を両立しながら、ROICを高められるかが重要
【気になること】
・835万人の識別顧客が、売上・利用額・グループ内利用の拡大へ本当につながるか
・インバウンドや富裕層需要への依存が高まりすぎないか
・「まち化」など大型投資で資本効率が低下しないか
・個客業、DX、データ活用に必要な人材・システム投資が成果へつながるか
・株価はすでに大きく上昇しており、今後は営業利益1,000~1,100億円、ROE10%超、個客業の収益化を数字で証明できるかが重要
【個人的な結論】
三越伊勢丹は、単なる「復活した百貨店」ではなく、百貨店という強い入口を持つ新しい小売グループへ変われる可能性がある会社だと感じました。
長期投資先として十分検討できますが、現在の株価は割安感だけで買える水準ではありません。
「良い会社だからこそ、成長を確認しながら買う価格を選びたい」
これが今の評価です。
参考資料・出典
本記事では、主に三越伊勢丹ホールディングス公式サイト、統合レポート、決算・IR資料などの一次情報を参照しています。越後屋・三井高利の歴史については三井広報委員会、競合比較については各社公式IR資料、株価については市場データもあわせて確認しています。
三越伊勢丹HD|企業理念・MISSION・VALUES・VISION
三越伊勢丹HD|越後屋・三越の歴史
三越伊勢丹HD|三井高利・マーケティング
三越伊勢丹HD|伊勢丹の歴史・マーチャンダイジング
三越伊勢丹HD|事業内容・売上構成
三越伊勢丹HD|強み・旗艦店・識別顧客
Key Topics in Investor Relations|三越伊勢丹HD
三越伊勢丹HD|個客業・中期経営計画・まち化
三越伊勢丹HD|統合レポート・成長戦略
三越伊勢丹HD|決算・業績・ROE・セグメント
三越伊勢丹HD|月次売上・国内外顧客動向
Key Topics in Investor Relations|三越伊勢丹HD
三越伊勢丹HD|株主還元・配当・自社株買い
三越伊勢丹HD|株式分割・株主優待
Key Topics in Investor Relations|株式分割について
三越伊勢丹HD|リスク管理
競合比較|高島屋・J.フロント リテイリング
株価・市場データについて
三越伊勢丹ホールディングス(3099)株価・株式情報|Yahoo!ファイナンス
三越伊勢丹ホールディングス(3099)株価時系列|Yahoo!ファイナンス
最終確認日:2026年9月13日
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